エコロジー
2022年08月24日

アカウミガメ繁殖の歩み

アカウミガメは、相模湾沿岸で産卵をおこなう唯一のウミガメです。“えのすい”ではアカウミガメの繁殖に向けてこれまでさまざまな取り組みをおこなってきました。

2004年
新江ノ島水族館オープン
ウミガメ展示プールには、上陸して産卵ができる砂浜を併設したが、繁殖には至らず。ウミガメの飼育・繁殖に関する情報収集を継続しつつ、さまざまな模索をおこなう。
2014年
開館時に作られたウミガメ展示エリアを改修し、アカウミガメ、アオウミガメがそれぞれ産卵できる砂浜を設けた展示施設「ウミガメの浜辺」をオープン。
2015年
オス個体の成熟が進む。性ホルモン動態を調べるために血液検査を開始。プールの仕切りを開けて、交尾を促す(「お見合い」)も、おそらくオス個体の成熟度が不十分だったため、メス個体に激しく追い払われてしまう状態が続く。
2019年
互いの姿が見えると闘争を始めてしまう習性があるため、ウミガメが隠れられる擬岩を新たに設置。初めて交尾行動が見られたが、産卵には至らず。
2021年
これまでで最長の5時間ほどの交尾が確認される。
2022年
「お見合い」により交尾を確認。後日、超音波検査にて卵殻の形成が確認される。その後、産卵、孵化、脱出と続き、繁殖に成功する。


交尾のようす


超音波検査で確認された卵

卵を探す
砂浜に足跡を発見したら母ガメが上陸したサインです。母ガメは、後肢を使って産卵巣となる穴を掘ります。穴の大きさにはばらつきがありますが、だいたい直径15~20cm、深さ40~60cmほどです。産卵後は上手に砂をかけて隠しますが、掘った部分は柔らかくなっているため、足跡と夜間設置した監視カメラの画像を参考にしながら、砂に棒を差し込み、産卵巣を探します。


母ガメの足跡

“えのすい”では母ガメが再び産卵で上陸した際に、既存の産卵巣を掘り返すのを防ぐため、産卵した卵の多くは安全な場所へ移植しています。体格の良い大人でもやっと底まで手が届くほどのしっかりとした穴を掘り、人工の産卵巣とします。


卵の移植のようす

砂の温度とウミガメ
ウミガメ類は砂の中に卵を産みます。雄雌は発生途中の砂の温度によって決まり、低いとオスに、高いとメスになります。オスとメスが同じ割合で生まれる温度は、臨界温度と呼ばれ、日本のアカウミガメでは29.7℃です。
また、ウミガメ類では産卵日からの砂の温度を足していくことで、ある程度孵化をする日が予想できます。今回“えのすい”では砂の中に温度計を埋めて、孵化日の予測をおこないました。


12週目の卵

ウミガメの謎の解明に向けて
ウミガメは回遊経路や寿命、性成熟年齢など、未だよく分かっていない部分が多くあります。これらの解明に向けて、“えのすい”では生まれた子ガメたちの一部に標識(今回孵化した子ガメたちにはマイクロチップを装着しています)を付けて放流しています。子ガメは孵化後約2日間は、捕食者の多い沿岸からより安全な外洋へ早く移動するために、本能的に沖に向かってひたすら泳ぎ続けます。これは「フレンジー」と呼ばれる興奮状態で、放流の際は、この「フレンジー」の状態を有効に活かせるようにしています。


マイクロチップと子ガメ

何年、何十年後の将来、“えのすい”からの放流個体が再び発見された際に、この標識を読み取ることが、謎を解く一助になる日が来るかもしれません。

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