四国・九州沿岸におけるミドリイガイの最近の動向

2006年04月
第13回 日本付着生物学会研究集会 講演/Sessil Organisms 23(2) P100-101
植田 育男



四国・九州沿岸におけるミドリイガイの最近の動向

植田 育男
新江ノ島水族館

研究の背景・目的 外来種ミドリイガイPerna viridis の日本沿岸における動向については、2000年頃までに東京湾、伊勢・三河湾、大阪湾域を中心とした三大都市圏沿岸からその周辺の相模湾、駿河湾、遠州灘、紀伊水道、瀬戸内海東部のいわゆる太平洋ベルト地帯を中心とした沿岸域に分布が拡大する状況が報告されている。
さらに2000年以降は瀬戸内海西部の愛媛県双海町、宇和島市や対岸の大分県蒲江町、さらに鹿児島市で出現の記録が得られている。このような状況から、本種が西日本沿岸域に分布を拡げつつあることが予想されるが、これまで当該地域で広範囲に亘って本種の生息について確認された報告はない。そこで2005年に四国地方および九州地方の沿岸で本種の分布を調査した。

方 法 調査対象地域は、四国地方南西部の高知県夜須町から愛媛県津島町までの太平洋の海岸と、九州地方東部の大分県安岐町から鹿児島県志布志町までの瀬戸内海から太平洋の海岸である。それぞれの調査期間は四国地方が2005年4月10~11日、九州地方が同年7月20~22日だった。
調査は過去の相模湾における現地調査の方法を踏襲し、大潮の干潮時にミドリイガイの着生する可能性の高い港湾や漁港内と周辺の護岸壁、養殖生簀、引き揚げられた漁船の船底など人工物を主に対象として、徒歩で寄り付ける場所を中心に探索した。本種が見つかった場合、生死の別や付着状況を記録し、写真撮影を行った。さらに直接手の届く範囲のものは一部個体を採集し標本とした。

結 果 四国地方では9地点で調査を行い、7地点で生貝の着生を観察し、1地点で死殻を採取した。生貝は高知県高知市と土佐市の土佐湾奥および宿毛市から愛媛県津島町までの豊後水道沿岸の地点より見つかった。死殻は土佐湾奥の高知県夜須町で見つかった。九州地方では15地点で調査を行い、5地点で生貝の着生を観察し、1地点で死殻を採取した。生貝は大分県佐伯市、宮崎県日向市、宮崎市、日南市および鹿児島県志布志町の調査地点で見つかり、調査地域のなかでも南側に偏っていた。死殻は、鹿児島県志布志町の陸揚げ整備中の漁船で観察され、船底清掃のため剥ぎ落とされた残渣に混在した。
発見された地点の状況では、14地点のうち11地点の発見場所が港湾もしくは漁港内の人工護岸壁や船揚げスロープ、2地点が漁船船底、残る1地点が養殖生簀のブイで、調査を人工物中心に行ったこともあるが、付着基盤はすべて人工物だった。発見地点のうち四国地方の1地点と九州地方の5地点は、東京湾内や大阪湾内の港湾との間で定期航路を持つ船舶が発着する港湾周辺という共通点が得られた。さらに九州地方の残る1地点(佐伯市佐伯港)についても対岸の四国地方の発見地点(宿毛市片島港)と定期的な船舶の往来のある港湾だった。
越冬地である相模湾江の島における本種の生活環や東京湾内の非越冬地における死滅時期から推測すると、今回の調査期間に見つかった生貝は当該地点で越冬した個体の可能性が高いと考えられた。



Sessil Organisms23(2) P100~P101 掲載
著作権:日本付着生物学会
2012年3月,日本付着生物学会より転載許可

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