海浜性昆虫シロスジコガネの展示と繁殖

2010年02月
第54回 水族館技術者研究会(日本動物園水族館協会)
伊藤 寿茂 ・ 唐亀 正直



海浜性昆虫シロスジコガネの展示と繁殖

伊藤 寿茂 ・ 唐亀 正直
新江ノ島水族館

要旨
シロスジコガネは海辺の砂地やクロマツ林に生息する海浜性のコガネムシで,全長25~30mmになる.近年では多くの地域で激減,絶滅しており,神奈川県レッドデータブックでも準絶滅危惧種に指定されている.この度演者らは,水槽内で本種の展示および繁殖を試みた.
2007年7月に野外で成虫を採集し,その一部を水槽(幅250×高さ230×奥行250mm)に収容して展示した.
残りの採集個体(雄5個体前後,雌10個体前後)を産卵ケース(海砂とハマヒルガオ,コウボウシバ,マツヨイグサ類を入れた水槽:幅330×高さ200×奥行180mm)に収容したところ,約1ヶ月後にケース内から成体の死体と共に50個体以上の卵(長径3~5mm)が得られた.
これらの卵を2つの育成ケース(ケースA:上記の産卵ケースと同じ水槽.ケースB:スズムシ用の昆虫マットのみを入れた水槽)に分けて収容した.
以後2~3ヶ月毎に掘り起こして幼虫の観察と計数を行った.
ケースBの個体は2ヶ月後に半数以上が死亡し,さらに3ヶ月後には全ての個体が
死亡した.
一方で,ケースAの個体は飼育開始後2ヶ月の減耗率が高かったものの,その後も順調に成長し,2009年3月に蛹化し,同年4月に雄2個体,雌2個体が羽化し,直ちに活動を始めた.
これらの新成虫を上記の産卵ケースに収容したところ,1ヶ月後に40個以上の産卵が確認され,飼育下繁殖個体による累代繁殖に成功した.
以上の結果から,本種の育成と繁殖は,従来の食樹とされたクロマツを用いなくとも可能であること,飼育下での幼虫期間が20ヶ月以上に及ぶこと,羽化後の成虫は短期間で蛹室を出て活動を始めることなどが確かめられた.
また,成虫の生存期間は極めて短く,その大部分を繁殖活動に費やしている可能性が示唆された.

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