バンドウイルカにおける妊娠時の胴周囲長及び乳裂間幅変化ついて

2015年10月
第41回 海獣技術者研究会(日本動物園水族館協会)
羽田 秀人 他



バンドウイルカにおける妊娠時の胴周囲長及び乳裂間幅変化ついて

羽田 秀人 ・ 鈴木 良博 ・ 堀内 郁恵 ・ 西谷 知佳 ・ 寺沢 文男
新江ノ島水族館

[要旨] バンドウイルカ Tursiops truncatus では,妊娠時における母獣の体型がどのように変化をすのか,詳細な報告はない.今回妊娠時に胴周囲長及び乳裂間の幅を継続的に測定し,併せて生殖溝周辺を写真で撮影した.供試個体は推定23歳の雌 (国内登録番号 600)で,調査期間は最終交尾観察日の2014年4月1日から出産日の2015年4月12日である.胴周囲長は個体を水面にて横臥姿勢で静止させ,乳裂中央,生殖溝最上端,背鰭先端直下,背鰭前の付け根4ヶ所を巻尺で,また,乳裂間幅は水面にて腹上姿勢で静止させ,乳裂最下端の幅をノギスで,それぞ測定した.胴周囲長は出産201-2日前まで測定し,出産90日前から出産までの期間における各部位の値と出産までの日数との間の相関係数は 0.895~0.966 で,有意な増加が認められた(p<0.01).これは,出産90日前頃から出産まで,胎子の頭部は左右どちらかの体側で観察されるので,この位置で生じる胎子の成長や,乳腺の発達が,胴周囲長を増加させる要因の一つではないかと考えられる.出産30~3日前の乳裂間幅は 3.5~4.0cm,体温は35.8~36.4℃の変動であったが,前者は出産2日前に5.1cmまで広がり,後者は出産前日に35.3℃まで低下した.この乳裂間幅の変化は,出産直前の黄体ホルモンの低下により子宮が収縮し,生殖溝が開いたためと考えられる.
以上のことからバンドウイルカにおいては,出産約90日前から胴周囲長が有意に増加することが示唆された.
今後もデータを蓄積し, 出産時期の推定や胎子の状態把握が可能か分析し,実用性を高めたい.また,出産2日前に乳裂間幅が広ったことから,より正確な出産日を特定する手段としては体温測定と併せて乳裂間幅を測定することを薦める.

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