2009年03月11日
トリーター:伊藤

泥の海を訪ねて( 2)


陸へと上がる進化中?

魚の中には、陸上で暮らせるようになったものがいます。泥の上をはいまわるトビハゼやムツゴロウなどです。
しかし、普段は水中で魚らしく泳いでいるものの中にも、意外なほど水のない状況に対応できるものがいます。

アベハゼ。

寸詰まりの顔とタナゴをほうふつとさせる、鮮やかなひれが通好みの干潟のハゼです。
彼らは水がたっぷりあるところよりも、ほとんど干上がりかけている水たまりや、石のキワが掘れてちょっとだけ水がたまっているようなところで見つかります。
ほとんど水がないので、泳ぐこともできず、ぴんぴんと泥の上をはねて一見苦しそうですが、そのはね方を何度も見ているうちに、その動きが、普通の魚とは違うことに気付きました。
はねる方向とタイミングがちゃんと「移動」になっているのです。

どういうことか?
例えばタイやマグロを水からあげれば、バタバタとはねまわり、挙句に力尽きてしまいます。
しかしアベハゼは、ピンっとはねる方向が、捕まえようとする私の手から確実に遠ざかる方向であり、さらに水場の方向であることが多いのです。
この経験は 1度や 2度ではありません。
偶然でしょうか?
どうも私には、彼らが未発達なりに、陸上を移動する能力を持ち始めている魚に思えるのです。

さらに彼らは、ある種の有毒成分を体内で弱める能力も持っています。
広い水場でライバルと張り合うよりも、汚れた小さな水たまりを渡り歩く「半端な陸魚」暮らしを選んでいるのではないか、と勝手な妄想までしてしまいます。

採集したアベハゼは当館の干潟水槽でご覧いただけます。
上からちょっと見ただけでは魅力が分かりにくい魚ですから、横から、にらめっこするつもりでじっくり眺めてみてください。

アベハゼアベハゼ

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