2009年09月17日
トリーター:今井

魔の三号室


水族館の展示水槽、特に暖かい海のレイアウトには、真っ白いサンゴ砂(ずな)は欠かせない。粒にはたくさんの小さな穴が開いていて、微生物が住み着くことで水質浄化にも役立っている。
また、少しずつ溶け出すことで、水質を良好に保つ働きもする優れものだ。そのため、量が減るのも早い。定期的にきれいなサンゴ砂を補充しているが、そろそろ時期が来た。
ちなみに、販売業者はサンゴ砂(さんごさ)と呼ぶ。
今回は、サンゴ砂にまつわる、哀れな話をご紹介しよう。

かれこれ 20年前、友人と私は南方の港町で趣味のボート・ダイビングを楽しんでいた。
冬であったが、暖かな日差しの中、堤防の上でウェットスーツに着替えていると、友人は着替え易さ抜群のパウダー(当時のウェットスーツは水を使わないと着ることが困難であったので販売された商品)を取り出した。
普段は海に飛び込んで着てしまう私も、思わず借りようとしたところ、強面の船頭さんが
「何してんのヨォ~!さんごさでやってヨォ~!」
と、ボートから叫んでいる。
(そうか、海をパウダーやローションで汚してはいけないよな・・・)と、友人は
「サンゴ砂(さ)ですかァ~、生活の知恵ですねェ~」
みたいな愛想笑いを浮かべて、きれいに乾いた砂を肌にサラサラと塗していた。
が、再び船頭さんが
「早くゥ~!さんごさでやってヨォ~!カギャ閉めるがらァ~!!」
と指差した。
振り返ると掘っ立て小屋の扉に番号が・・・。
ちなみに、船頭は 3号室(さんごさ)と呼ぶ。
止まった時間の中、私は肌にやさしいパウダータイプのサンゴ砂を握っていた・・・。

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