2012年03月10日
トリーター:根本

今週のお勧め-深海コーナーは研究室!~相模湾に生息するハオリムシの飼育実験中!!~


水族館というと何でも飼育できるようなイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。飼育できない生き物が山ほどおります。私の担当する深海の生き物なんて、それはもう飼えない生き物だらけです。一生懸命採集して、知恵をこねくり回して飼育システムを組み、体力を振り絞って世話しても、あけなく死んでしまうこともあります。
ではなぜ平和で穏やかな深海から深海生物を引っ張りあげてわざわざ狭い水槽で飼育しようとするのか?それはですね、知るためなのです。

どんな生き物もそばにおいて長い時間向き合わないとよくわからないものです。例えばネコなんてこの世で最も多くの知識や情報がある動物の一つですが、でもそんな知識だけじゃネコは語れないですよね。中学生の頃、我家にもネコがやってきましたが、びっくりするようないろいろなことを教えてくれたものです。

深海生物も同じです。特に深海生物なんて住んでいるところを観察することなんてなかなかできないですからね。飼育は生き物を知るための大事な一歩なのです!
今や人の生活は深海にもいろいろと影響を与えているようです。「気がついたら絶滅の危機に追いやっていた」なんてことにならないように、しっかり知っておくことが大切だと私は思っています。

前置きが長くなりましたが、今回はハオリムシのお話。
知っている人は知っている、深海でも“変わり者”で有名な深海生物です。ちなみに「ゴカイの仲間」の多毛類になります。
最近では高校の生物の教科書にも出てきますね。私の大学受験時の生物の参考書にもバッチリのっていました。(当時はこんな生き物を飼育する水族館職員になるとは夢にも思いませんでした・・・。)
さて、この生物は何がスゴイかというと、口も胃もおしりの穴も何にも無いのに生きていけるということです。もちろん植物じゃありません、れっきとした動物です。
では何をエネルギーにしているか!?
なんと硫化水素などの化学物質を取り込み、体内のバクテリアに運んでそれらに自身が必要なエネルギーを作らせているのです。

このハオリムシは 1977年にガラパゴス沖の深海で発見され、硫化水素で生きる生物として有名になりましたが、15年ほど前に日本にも住んでいることがわかり発表されました。しかも人が住む目の前の海、鹿児島湾や相模湾の海底で発見されています。

鹿児島湾に住むのが「サツマハオリムシ」、相模湾には「アレイズハオリムシ」と「サツマハオリムシ属の一種(名前がまだありません。相模湾のハオリムシなので通称サガミハオリムシと呼んでいます)」の 2種が生息しています。
そして今、その 3種を“えのすい”の深海コーナーで飼育しています!
といっても、ハオリムシの飼育方法はまだまだよくわかっていません・・・。研究段階です

ただ、サツマハオリムシに関しては一昨年、いろいろ実験した結果、ようやく深海の海底で見せるような美しい状態(住みかである筒から赤いエラを出した状態)で飼育できるようになりました。
今年その成果としてサツマハオリムシの生態について海洋研究開発機構(JAMSTEC)のブルーアースシンポジウムで発表したところ、同じくサツマハオリムシの発表をしていた研究者の方と意見が大きく食い違っていました・・・。まだまだ謎がいっぱいということですかね。
ちなみにこういった実験は深海コーナーの展示水槽を使っておこなっていますのでいつでも見ることができます。ぜひ見てくださいね!

ちなみに、エラを出した状態は決まった時間にしか見ることができません。決まった時間にしか出さないのです。

朝 8時から 18時の間の毎正時から約 30分の間、この時間だけ美しいエラを出してくれます。そのほかの時間は筒の中に隠れてしまっている可能性大なので、ご覧になるときはこの時間内にいらしてくださいね!

なぜ時間で違うのか?
水槽内に硫化水素を発生させて飼育しているのですが、サツマハオリムシではその濃度がキモになります。硫化水素濃度とエラを出す行動が密接に関係しており、水槽内に硫化水素を供給する毎正時から濃度が低下してしまう 30分後までの間の時間だけエラが出てくるのです。「ずっと出すように濃度を調整すればいいではないか?」といわれそうですが、このリズムが今のところ水槽が安定するベターなセッティングなのです。

さて、残る 2種「アレイズハオリムシ」と「サガミハオリムシ(仮名)」ですが、今まで 1度もうまく飼育できたことがありません・・・。無念の敗北を重ねています。

しかし今回、サガミハオリムシ(仮名)はかなりいい感じです!

先日JAMSTECの船舶「かいれい」と無人探査機「かいこう7000Ⅱ」を用いた調査航海に参加させていただき採集したのですが、これに乗船した深海チームの元気娘の北嶋さんが自身で考案したスペシャル輸送ケースで大事に持って来てくれたおかげで、かなりいい状態で持ち帰ることができました。

そして、今回は思い切って「高濃度の硫化水素」「低酸素」「高濃度の二酸化炭素」という環境で飼育実験をしています。生息場所はちょっと違うのですが、今まで生息環境に似せた水槽で飼育してもうまくいかなかったので、ここは試しにサツマハオリムシでうまくいっている方法を適用していこうという作戦です。
今のところ上記の 3つの何が効いているのか、それともスペシャル輸送ケースの効果が絶大だったのかわかりませんが、今までに無い手ごたえを感じています。今後要因を探っていくつもりです。

このサガミハオリムシ(仮名)も深海コーナーの展示水槽にて実験していますのでぜひご覧ください!世界広しといえど生きた状態で見られるチャンスはなかなかないです!

サガミハオリムシ(仮名)サガミハオリムシ(仮名)

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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