このところ雛の話題でよい話をお伝えできていたのですが、今回は悲しいお話しになります。
先日 2月 14日にフンボルトペンギン「モンチ」が死亡しました。

ショーにはほとんど参加していませんでしたので、名前を聞くことは比較的少ないペンギンですが、今いるペンギンたちの始まりを作ってくれた“大いなるペンギン”でした。
私がペンギンの繁殖を始めた 19年前、先に繁殖を始めたのは雄雌ともに野生から来たペンギン「 2赤（雄）」と「 2黄（雌）」の繁殖です。
私もペンギンの繁殖がどういうものかわからずに取り組み始めたとき、この 2羽はとても協力的にいろいろな過程を見せてくれました。
次に挑戦したのは繁殖個体を含む番（つがい）形成とその番からの繁殖になります。
当館ではもっとも長生きをした雄（1青）の連れ合いが死亡した後、どの個体とペアを組ませるか悩んだ挙句、1992年 4月 16日生まれの「モンチ」に決めてペアリングを行い無事、番になりました。
当時「モンチ」は 4歳、雄の「 1青」は 21歳以上（野生から来た為本来の年齢は不詳）その差 17歳の番でしたが、まだキャピキャピだった「モンチ」をうまくリードしてすぐに繁殖にいたりました。そのはじめの仔が現在の「セサミ」です。
それまで「 1青」は前妻との間にいくつも卵を産卵していたのですが一度もふ化することはなく、また、有精卵も少なかったように記憶しています。
それがはじめからふ化したのですからビックリです。
まだ雛をやさしく扱うというより必死で守りきるという雰囲気を漂わせていた「モンチ」。もう一方の番とは対照的で扱う係員も神経を使った記憶があります。
また野生個体の「 2赤」、「 2黄」の育雛に比べて圧倒的に雛の成長状況が悪く、以後現在までに育った 25羽中でも一番成長曲線が低い成育状況でした。ですので現在でも当館では雛の育成状況の最低ラインの指標になっています。

またそのあとの繁殖では、「モンチ」の若さっぷりなのか、卵や雛を蹴りだしてしまったりと不運が続き、次に成功したのが今の「マリー」になります。
その後繁殖を重ねるごとに母らしくなっていき、最後の子育ては「ヒカル」と「アカリ」の姉妹でした。
その 4年後に番相手の「 1青」を亡くし、それ以後も若さからか果敢に雄ペンギンへ自らアプローチするなど積極的に行動するところは最後までかわりませんでした。
そして、きょうまでに、死んでしまった「ジャンボ」を含めると 6羽の子どもを育てあげ、その子たちから 10羽の孫がいる当館で最も繁殖に貢献したペンギンとなりました。
「モンチ」が残した子どもや孫、そして育雛の記録も全て貴重な財産であり今後に役だっていくものばかりです。「モンチ」が教えてくれたこと、残してくれたものを継続的に今後の飼育に活かしていくことが我々の役目であり、「モンチ」への恩返しになると思っています。

あとがき
「モンチ（ 1黄 2）」は 1992年 4月 16日に野生個体の番、「1黄（雌）」と「赤赤（雄）」の 3番目の子どもとして産まれました。
昨年“えのすいハッピーバースデー”が始まった時にみなさんへは公表されたのですが、実は新江ノ島水族館の開館日と同じ日が誕生日でした。

「モンチ」の両親のうち父親は腹部のゴマ模様がとても多かったのですが、「モンチ」や「 1青」はさほど多くもなく、その後産まれた「セサミ」（お腹のゴマま模様が多いから付いた名前）や「ジャンボ」、「ヒカル」、「アカリ」なども非常にゴマ模様が多く、隔世遺伝ではないかというヒントも与えてくれています。
「モンチ」の子どもで育った個体は「セサミ」、「マリー」、「ジャンボ（死亡）」、「ウタ」、「ヒカル」、「アカリ」で、「ジャンボ」と「ハク」の間には、「グー」、「コハク」、「ユメ」、「フク」、「ノゾミ」、「サン」、「ムーン」が、「セサミ」と「ポー」の間に「チョキ」、「ウタ」と「ポー」の間に「メロディー」、「ヒカル」と「トップ」の間に今回の雛の計 10羽の孫がいます。
嘴がちょっと短くて、眼がクリクリしているかわいい感じの印象は「マリー」や「ウタ」、などへ引き継がれていて、「モンチ」の面影が似ている子どもや孫もいます。

年齢的には 21歳ということで、先に死んでしまった「 1青」は 30年も生きていますが、当館の平均寿命は 20年に届かないくらいです。そこからすれば 21年は立派な年数だとも思います。
最後に良かったかなと思えることは、最後までみんなと同じエリアで一緒に居られたことです。
大抵の場合、終末は治療エリアで迎えることが多ので、いつもとは違う環境で仲間の声も聞こえないのですが、同じエリアに居たことで子供たちの声などは聞こえていたと思います。