2016年06月03日
トリーター:根本

基本は大事

深海生物の飼育から温帯・熱帯系生物の飼育に異動して 2か月ほどたちました。15℃以上の水温で生物を飼育するのは、水族館でまともに飼育業務をするようになって初めてかもしれません。
ふやけるまで手を入れていられるのは新鮮です。深海では水温は最高でも 13℃、一番冷たい水槽では 4℃でしたので水槽に手を入れている時間が伸びると寒くて指が上手く動かなくなり、4℃の水では 5分も作業していると痛みで作業ができなくなります。よく水道水で手を温めながらの作業をしたものです。

最近は温帯・熱帯系の水槽を良く扱うのですが、面白いことに水槽に起きる現象は水温に関係なく同じような事が起きるものですね。

濾過材成熟不足や濾過槽の能力低下、エサのやりすぎなどで負荷をかけすぎると水温に関係なく水槽ガラス面のヌメリが発生し始め、さらに放置していると水が白濁してきます。この現象は水温の違いだけではなく淡水・海水の違いなく発生します。
進行スピードは水温が低い水槽ではなだらかに進行し、暖かい水槽では(私にとっては)雪崩のようにやってきます。

一方、水質悪化に対する生物の反応は深海生物と温帯・熱帯生物では違いがあります。
どちらが弱いと思いますか? 「もちろん深海生物」と思いますよね。

逆なのです。暖かい水の生物の方が水質悪化に敏感に反応します。
温帯熱帯系の水槽では水質悪化に対してリニアに生物の状態が悪化していき水槽の崩壊と生物の状態悪化が同時に来ます。一方深海生物の場合は意外と耐えてくれるものが多いのです。ただ、水質の悪化に強いわけでは無くダメージが遅れてやってくるイメージです。

もちろんダメージは確実に生物に刻み込まれています。この“遅れてくる”ところが曲者なのです。
一般的な生物の飼育では飼育員の手抜きに生物の状態が直結するため、「手抜き=死」が解りやすく飼育員の心にトラウマとして刻み込まれていき技術が向上していくものなのですが、深海生物の場合は時間差で来るため、死因が良くわからないことが多く、技術の向上が進まず案外飼育が荒っぽくなる傾向があります。

低水温だと「溶存酸素が多い」「水が悪くなりにくい」「代謝が低い」などのイメージが頭の片隅へばり付き「このくらいなら大丈夫」というのが出てきて、徐々に世話が疎かになるのです。これに気付き改善を始めたのが 2~ 3年前くらいで、水槽管理方法の見直しや生物の生活する環境改善(砂や隠れ家など結構重要です)、水槽の掃除などを積極的に改善を試みてみました。そうすると生物の死亡率は減り、行動にも変化出てきます。

生物の飼育はやはり“基本”が大切です。深海の化学合成の生物でもこの“基本”が重要です。この基本があってこそ化学合成に必要な硫化水素や二酸化炭素が生きてきます。

当たり前の話でつまらない話だと思われるかもしれませんが、意外と疎かになりがちなのがこの“基本”です。
一回りするとこの“基本”の重要性を改めて感じます。
熱帯温帯の魚の世話をしていると、小さい水槽で一生懸命生物を飼育している方(プロアマ問わず)が深海生物の飼育を行うときっと新たな扉が開けるのではないかと思って来たりします。水族館に努めて10年近くなりますが、改めて飼育というものを考えさせられる毎日です。


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