2016年06月09日
トリーター:戸倉

まるでSP(セキュリティーポリス)

ギンガハゼギンガハゼ

私の担当している「今上陛下のご研究」のコーナーに「共生ハゼ」の展示があります。
共生とは、読んで字の如く“共に生きる”です。この共生関係にはさまざまな形態があり、その中に「相利共生」や「片利共生」があります。前者は異なる生物種が同所で生活することにより、お互いに利益を得ることができる関係。後者は一方が利益を得るがもう一方は利害が発生しない関係となります。

ということでちょっと難しい話になりましたがここでの展示は、前者の「相利共生」となります。
現在、この共生関係がしっかり見られるのはギンガハゼで、体色が黄色っぽいのですぐに見分けることができます。といってもこの2匹が共生関係にある訳ではありません。
では、このギンガハゼと共生関係にある“異なる生物種”は何でしょう?? その答えは水槽をよ~く観察していると現れます。

2匹で仲良く穴から顔を出していると・・・
その間から突然!


突然現れるニシキテッポウ

「ハイハイ!どいてどいて!!」
といわんばかりに、忙しそうに体長 4~ 5cmほどのエビが現れます。
ニシキテッポウとよばれる、テッポウエビの仲間で、爪をスコップのように器用に使って砂や小石(サンゴの破片)を運搬しています。何のためかというと、ギンガハゼとともに隠れ住んでいる「穴のメンテナンス」をおこなっているのです。そこは、細かな砂なのでハゼが動くたびに砂時計の砂のようにサラサラ崩れていきます。その砂をひっきりなしに掻き出して、隠れることのできる大きさの穴に保っています。

そこで、この異種生物の共生理由ですが、このニシキテッポウと呼ばれるエビは、視力が弱いといわれています。その眼の役割をギンガハゼが担っているのです。一方ギンガハゼは、ニシキテッポウが掘った穴を隠れ家として利用しています。簡単にいうと、ハゼは“見守る代わりに家を間借りしている”、エビは“家を提供する代わりに見守ってもらう”という共生条件が成り立っている訳です。

この砂の掻き出し作業ですが、見ていると非常に面白く、エビとハゼの関係性もよくわかる様になります。
とにかくエビはよく働きます。まるで土木工事のブルドーザーのように何度も何度も穴から砂を外に運び出します。更によく見るとエビの触角は、常にハゼの体に触れています。それによって安全なのか? そうでないのか? つまり土木工事を続けても他の生物からの攻撃を受けないか? をハゼから感じ取ることができるのだと思います。
ですからハゼが穴に潜ってしまうと、エビもでてきませんし、しばらくハゼが他の所に泳いでいってしまうと、エビは動きを止めて、電池切れのようにその場から動かなくなります。

この土木工事ですが当然、掻き出した砂は穴の外に堆積していきます。しかし 1か所に堆積させると、再び崩れてくる危険性があることを知っているのか、掻き出す場所を変えているようです。
その場所は、エビが急に方向転換をするので、その度にハゼたちは向きを変えて「警護」をします。




エビが穴の上の方に向かうと、ハゼたちもそれに合わせて警護をするので、まるでSPのようです。

この完璧なテッポウエビの土木工事に対し、ハゼの“SPぶり”はというと、それほどでもなく、時々職場を離れてしまうこともあります。その対比も見ていて飽きません。そのためか? 日ごとに穴の位置が変わったりします。
水槽手前でこの土木工事がおこなわれると、展示効果として「よしっ!」と思うのですが、後方になってしまうと・・・「ん~。」「こればっかりは仕方ないか~。」となります。
ちなみに、本日の土木工事は、写真のように、手前でした。


本日の土木工事現場

「今上陛下のご研究」のコーナーでご覧いただけますが、警護の場所はその日になってみなければ分かりません。水槽内で繰り広げられている小さな小さな世界をぜひ、覗き込んでみてください。

皇室ご一家の生物学ご研究

RSS