2017年12月09日
トリーター:杉村

“えのすい”深海研究最前線!

シロウリガイ類シロウリガイ類

今回のトリーター日誌では、JAMSTECと新江ノ島水族館との共同研究でおこなってきた、深海に棲むシロウリガイ類の飼育に関する研究の成果が、この度研究論文(掲載雑誌:Fisheries Science)となりましたので、みなさんに報告したいと思います。

JAMSTECの研究者と共同でおこなった科学実験のデータや、“えのすい”で我々のおこなった飼育環境計測のデータなどが掲載されています。

論文のタイトルは
“Effects of a long‑term rearing system for deep‑sea vesicomyid clams on host survival and endosymbiont retention”
「シロウリガイ類長期飼育システムの宿主生存と共生菌保持に対する効果」
です。

要約すると・・・

シロウリガイ類は、エラの細胞の中に硫化水素をエネルギー源に有機物をつくる細菌(化学合成細菌)を共生させていて、この細菌に栄養を依存して生きています。
シロウリガイ類の飼育はとても難しく、その不思議な生態を理解する上で大きな障害になっています。
新江ノ島水族館とJAMSTECが共同で作成した、人工的に化学合成環境を再現した「化学合成生態系水槽」では、これまでに 100日を超えるシロウリガイの飼育が可能になってきましたが、貝の生存個体数は多くありません。
そこで今回、その飼育技術を改善するために、2014年に相模湾の深海で採集したシロウリガイを「化学合成生態系水槽」で飼育して、この水槽のシロウリガイの長期間飼育に対する効果を科学的に評価しました。


化学合成生態系水槽

化学合成生態系水槽と通常水槽の間で、シロウリガイの生存率や共生菌の存在量の比較などをおこないました。
その結果、化学合成生態系水槽は共生菌の存在量の保持に効果をもつことが示されました。
また宿主であるシロウリガイの生存維持にも効果がある可能性が示唆されました。
さらに電子顕微鏡観察や共生菌の遺伝子発現解析から、共生菌は蓄えた硫黄をエネルギー源として飼育中に消費していることも示されました。
共生菌の適切な代謝機能を促進させて、宿主であるシロウリガイ類をより良い条件で飼育するためには、より安定した硫化水素の濃度制御と、水槽中の酸素及び二酸化炭素の割合を生息現場のものに近づける必要性が示唆されました。

・・・という内容です。

詳細はこちらよりご覧いただけます。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

これまで行ってきた“えのすい”とJAMSTECの共同研究が、研究論文という形で発表できたことは、とても嬉しいかぎりです。
この場を借りまして、研究にご協力いただいたみなさま、相模湾でのシロウリガイの採集・調査航海に携わっていただきました「なつしま」並びに「ハイパードルフィン」のクルーのみなさまに感謝いたします。
ありがとうございました。

公開されました論文を目にすると、実験期間中のことが今でもはっきりと蘇ります。
実験用のサンプル採集のために、研究者のみなさんには何度も水族館へ来ていただき、解剖などの作業を一緒におこなわせていただいたこと(研究用に生き物の解剖などをしたことは初めてでしたので、とても緊張していました)や我々の予想に反する事象が発生してみんなで議論したこと、徐々に実験データが集まってきて、その結果をドキドキしながらまとめたことなどが思い出されます。
とても勉強になったとともに、充実して楽しかったことを覚えています。

この研究結果をもとにしてさらなる飼育技術の開発をおこない、シロウリガイ類の生態の解明を目指すとともに、研究者のみなさんと我々の飼育とが今後もうまくコラボレーションできるように努力していきたいと思います。

今後のJAMSTECと“えのすい”の共同研究に注目してください!!

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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