オタリアの採尿トレーニングについて

2010年11月
第36回 海獣技術者研究会(日本動物園水族館教育研究会)
秋山 大志 他



オタリアの採尿トレーニングについて

大下 勲 ・ ○秋山 大志 ・ 櫻木 徹 ・ 森田 成将
新江ノ島水族館

要旨
新江ノ島水族館では,4頭のオタリア(Otaria flavescens)を飼育している.
2005年からハズバンダリーによる体温測定を行っているが,うち1頭は,肛門から直腸にプローブを挿入する際に,排尿が時折見られた.そこで,ハズバンダリーによる採尿のトレーニングを開始した.
トレーニング対象個体は,1985年5月に搬入した雌個体(推定26歳,国内登録番号113).採尿のトレーニングは2010年5月より開始した.
試行回数は毎朝一回の予定だったが,条件付けの機会を増やす為に2010年6月より朝夕の二回とした.
採取量は,簡易検査を行う為に10mL以上を目標とし,所要時間は一回の試行につき3~5分程度,プローブの挿入回数は1~2回とした.
トレーニングを開始した初期の段階では,排尿中に餌による強化を行うと,個体の意識が餌に集中してしまい,目標量の10mL以下で排尿が停止する事が多く見られた.その為,排尿中の強化はボイスによる二次性強化子に切り替え,魚による強化は排尿が止まってからとした.その後,試行回数が20回を過ぎた頃から,排尿中の魚による強化も可能となった.
刺激による排尿の生起確率を増やす為に,以後は二次性強化子と一次性強化子を同時に用いた.更に,通常与えていた魚の切り身の代わりに丸のままのサンマを与え,強化子の多様性を高めた.
この結果,トレーニング開始直前は,排尿の生起確率が月30回の試行回数のうち2~3回,約10%であったのに対し,2010年8月末現在では約40%にまで向上した.採取量も一回当たり約100mL以上に達した.
ハズバンダリーによる採尿が可能となれば,尿検査によって病気の早期発見が期待出来る.また,この経緯をもとに他個体の採尿トレーニングに繋げる事が出来るものと考える.
今後は排尿の弁別刺激をプローブ挿入からサインに移行すると共に,採尿の更なる安定化を目指していく.

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