2010年02月23日
トリーター:寺沢

真冬のクルージング

来る者を拒む、その海域。
冬の風に、春の風。それらが入り混じり、安定しない気象状況。
就航率が悪く、接岸率はもっと悪い、二月の海暗。

東京発、三宅島・御蔵島経由、八丈島行き。
うねりがひどく、条件付の出航である旨を告げられるも、どこにも着かなきゃ、一泊二日のクルージングか?と一人毒づき、軽く聞き流す。
これまで一回たりとも他の島に連れて行かれたことはねぇ、と意味もなく一人首を振る。

東京湾は長い。
22時 20分、竹芝桟橋を後にして、船舶の往来の多い、東京湾を出るまでゆっくりと航行して、ほとんど揺れない。その大きさで、湾の内か外かを体で感じることが出来る。

23時、消灯。
ほとんど揺れない。すべて予定通り。
心地よい揺れのため、気が付くと夢の中。
やがて、横揺れがだんだん大きくなっていくのを、それが夢か現実か、分からぬまま、時間だけが過ぎて行く。

翌日 5時少し前。
通常であれば、再び灯りがともり、小鳥のさえずりとともに、まもなく入港のアナウンス。
が、しかし、いつもと少し違う。
灯りが点くことなく薄暗い中、淡々と三宅島、御蔵島は海洋状況が悪いため接岸することなく、一路八丈島を目指す、との非常の宣告。

ああ、無常!

あり余る時間を埋めるため、ただただ海を見る。
人はこんな時、詩人になる。

やがてその船は、八丈島発、御蔵島・三宅島経由、東京行き、となり、今度は来た航路を北上する。
10時、二度目の蛍の光にも、なぜか、クールだ。

再び、うねりがひどくなり、それに合わせるようにして海鳥が舞っていた。
12時30分、御蔵島には入港しない、との悪魔のささやき。

その船は、御蔵島の南から東側を通り過ぎ、北を目指した。
もう少し島に近づいたところは、“えのすい”で毎日ともに過ごしているバンドウイルカよりも少々小柄であるミナミバンドウイルカの楽園。一昨年、家族でイルカウォッチングをしたポイント。
残念ながら、イルカは見えなかったが、無数のウサギが跳ねていた。
といっても、野生のウサギはその島には生息しない。ウサギとは、海が荒れ、波頭が砕けた白波を指す、海の言葉。

13時40分、条件付ながら、三宅島に入港を試みる、とのアナウンス。

13時46分、その船はうねりのため、二度三度と、大きく激しく、左右に揺れた。着くか、戻るか、果たしてどっちだ?

バックナンバー
[ 2008年 海暗の八月に想うこと ]
[ 2007年 暗い海で見た、幻想 ]
[ 2006年 御蔵島まで南下せよ。 ]

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