2011年08月11日
トリーター:根本

深海の天使


その時、私は和歌山県沖に浮かぶJAMSTECの学術研究船「淡青丸」に乗っていた。
St. 5と呼ばれる海域で生物採集用ネット「ビームトロール」を水深 1,500mから引き上げた時、アイツが現れた。

木の枝?
いや違う、この艶、節、そして爪、これは・・・ 。

とり上げ、その山吹色の枝を広げて行くと、それはそれぞれの端が一か所でくっ付き、それは放射状に広がっていた。
まるで虫のクモのようだ、しかし陸上のどのクモよりも脚が圧倒的に長い。
私は心の中でつぶやいた。

「使徒を肉眼で確認」

某アニメの汎用人型決戦兵器の第九番目の敵にそっくり、いや、それよりグロテスク。
どうやら私だけではなく乗船していた研究者のうち 20~ 30代の大学院生、博物館の学芸員さんはほぼ全員同じ反応。
どうやら生物をやっている人はみなあのアニメを見て育っているらしく、一人スイカの水やりのシーンの話を始めると
「俺はここで水を撒くことしかできない・・・」
と台詞が出て来る。
そうしてチームワークがいっそう強くなるのだった。
どんな知識がどこで役立つかわからないものです。

マニアックな話はここまで、その山吹色の生物の正体はウミグモでした。
ウミグモ目に属し、皆脚類とも呼ばれるその生き物は、その名の通り体といえるものがほとんどなく、みんな脚みたいな姿をしています。
ほとんど脚と変わらない太さの体には内蔵が入りきらず、脚の中に消化管が入り込んでいるらしい。
脚を透かしてみると、消化途中の食べ物の陰なのか薄ら黒いものが見える。
そして今回採集したウミグモはウミグモの中での最大種のベニオオウミグモ。
脚を広げると 45cmを超えてしまう。
口は穴しか空いておらず、それを軟体動物や刺胞動物に突き刺して体液をすうらしい。

残念ながら上がって来た時には生きていませんでした。
現在このウミグモを標本にすべく作業をおこなっています。
標本もいろいろ手段がありますが、この生き物の良さを引き出すことを重視すると、乾燥標本が一番。
現在、標本室にこもってポージングを考えながら標本作製中です。
できあがったら深海コーナーの標本コーナーで展示したいと思いますので、お楽しみに!

ベニオオウミグモ (C)JAMSTECベニオオウミグモ (C)JAMSTEC口です (C)JAMSTEC口です (C)JAMSTEC

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