2013年07月10日
トリーター:石川

新アイテム

フンボルトペンギンの嘴フンボルトペンギンの嘴

最近ペンギンを給餌している時に身につけているアイテムが、増えたり変わったりしています。
その一つは手袋です。

実は以前より手袋をしてペンギンを扱ってもよいのでは?!と思っていました。
というのは、私が入社したころから最近までは素手で扱うのがあたりまえで、ペンギン担当者というと手首から指の先まで生傷が絶えないというのが普通だと思っていました。
餌を与えている時は 1羽に 40匹の魚を 1匹ずつ与えています。
単純に計算しても 22羽で 1日 2回、1,760匹になります。
この間に 4、5回は誤って指を咥えられたり、早とちりでかみつかれたりします。
猫を飼育されている方などは、猫と遊んでいるとひっかかれることがよくあると思いますが、印象的にはあれよりはちょっときついイメージです。

以前にもお話ししたと思いますが、フンボルトペンギンの嘴(くちばし)は、上嘴の先端が鉤(カギ)状にまがり、下嘴の先はその鉤状な部分を受ける形でVの字となっていて、Vの字の先端は鋭く尖っています。
フンボルトペンギンは野生で主にイワシの仲間を獲っているということですが、人が生きているイワシをつかもうとすると鱗で滑り、うまく捕まらないといった状態になります。
また、鱗ははがれやすくなっていて、これが滑りを増大させてイワシとしてはより逃げやすくできているようです。
フンボルトペンギンの嘴はこのイワシを確実にキャッチし、逃さず、致命的な一撃を与える為に都合の良い形状になっているようです。

またペンギン同士ではよく突き合いをしますが、ペンギンの皮膚を直接傷つける為には羽毛がないところをつつく以外は、硬い防水性の羽毛がガードしていて直接的に皮膚に到達することは殆どないようです。
羽をつままれるのは痛いようで、突かれればもちろん怒って応戦していますが・・・・。

これに比べると、いかに筋肉質の人間でも指先周辺はペンギンの皮膚ほど硬くなく、あの嘴で咥えられると見事に上側は一本線、下側は二本戦の 3cmから 5cmくらいの切り傷になってしまうのです。
特に下側はまるで剃刀二枚を武器にしたような傷跡なので、さらに治りにくいというおまけつきです。
慣れてくれば咬みつかれずに立ちまわることもある程度は可能ですが、より密接な関係を築こうとすると、その機会も増えてしまいます。
極地ペンギンを飼育している園館では、環境が寒いを通り越して冷たい環境だからなのでしょうか、以前から手袋をして作業されているところが多いようですが、以前から素手で扱えている園館では、捕獲する時などに皮手袋を使用する以外はなかなか常時手袋をして作業しようというまでには至らないようです。

毎年、孵化した雛が自力摂餌する頃になると「もっとご飯ちょうだい」の意思表示としての甘える行動に“甘咬み”があります。
小犬を育てた経験がある方はわかると思いますが、まだ幼いころはかわいいものでくすぐったいくらいですが、この甘咬みがだんだん強くなって結構ひどい傷になることがあります。
おととしに巣立った「ノゾミ(黒タグ)」は、私が記憶する中でダントツにこの甘咬みが痛い個体でした。
当時新人のKさんには、これが普通だ!といいつつもあまりにひどかったので、しばらく扱わなくていいよといったほどでした。
この時に手袋を使用しても・・・という話しが出たのですが、この甘咬み時期は一時的なものなのでそのまま終息し、この時は咬まれやすい指だけ毎回テーピングするという方法でやりきってしまいました。
手袋を使用する踏ん切りがつかなかった理由としてもう一つ、手袋に変えるまでのプロセスで、現在、給餌場へ上がる行動も一つのトレーニングですし、体重測定や抱き上げたり触れ合ったりする一連のコミュニケーションも素手でおこなってきたため、これらに微妙に影響が出てくると、元に戻したり、直したりするのにトレーニングした時以上の時間を費やす結果に至りやすいという点でした。
やはり使い始めた当初は、全く寄ってこない個体が出るなど微妙に影響が出ていたのですが、懸念するほどのことは無く、全羽馴致(じゅんち)してくれました。
一度大丈夫だとわかると今度は以前より接近することが可能となり、今までは手が出せなかった時でも手で対応できるようになりました。
喧嘩の仲裁まで手でできるのです。
こうなるとペンギンによっては手袋に関して別な対象として認識するのか、触れても警戒せず、触る場所とシチュエーションによってはペンギン同士のコミュニケーションを模擬的におこなうことができるようになってきました。
徐々に慣れてくれることで、新たな展開へつなげられそうなので、今後が楽しみです。

そしてもう 1つのアイテムは長~靴です(誤字じゃないですよ)。
普通の作業用長靴はふくらはぎあたりまでありますが、ここがペンギンたちの嘴位置と同じくらいの高さなのです。
ペンギンたちの中には以前もお話ししたと思いますが、「ルビー(赤タグ)」のように催促や邪魔な時に足を突いてくる個体がいます。
長靴であれば屁でもない突きなのですが、ズボンの上からだとかなり痛いのです。
この時ペンギンたちは嘴をちょっと開けてつまんでひねるという行動をとります。
以前はこの行動をする個体が多く、長靴の上あたりに赤い血豆が何か別の病気のように点々とできることもありました。
以前に比べるとこの行動自体を行わせないようにしているので回数は減っていますが、時々やられてしまいます。
今回使用し始めた長靴は、いままでのものより 13cm以上も高いのです!!
普段は合羽を着ているのでみなさんからは見えませんが、これによって怒っている時や興奮している時でもより接近して状況を把握できるようになりました。

これらのアイテムによって新たな行動を引き出したり、より親密な関係を築いていきたいと思っています。

ペンギン・アザラシ

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