2023年12月17日
トリーター:杉村

タギリカクレエビとサツマハオリムシ・・・そして、アマクサクラゲのポリプ

ちょっといつもより長いタイトルですが、深海Ⅰ にて展示公開中の「タギリカクレエビ」と「サツマハオリムシ」、「アマクサクラゲのポリプ」についてご紹介します。

サツマハオリムシは、“えのすい”で一番長く飼育をおこなっている深海の化学合成生態系生物です。海底から湧き出る硫化水素を利用して生きている環形動物(ミミズやゴカイ)の仲間です。

タギリカクレエビは、3 ~4 ㎝の小型のエビですが、身近なエビではテナガエビに近い仲間で、錦江湾の中ではサツマハオリムシの群生地(以下、ハオリムシサイト)にしかその姿を見ることができません。
海底に点在しているハオリムシサイトは、海底で観察すると小高い山に生えた竹林のようにみえます。
錦江湾のハオリムシサイトの周辺は、見渡す限りの砂泥底です。今考えられることは、竹林のように生えるサツマハオリムシたちは絶好の隠れ場になっているということです。サツマハオリムシの棲管に付着したさまざまな付着物を食べているのかもしれません。隠れ家であり絶好の餌場なのかもしれません。それとも、まだほかに我々の知りえない特別な関係があるのかもしれません。

実は、このハオリムシサイトを利用しているのはタギリカクレエビだけではありません。
錦江湾のハオリムシサイトでは、アマクサクラゲのポリプが自然界で初めて見つかった場所でもあるんです。

クラゲは、水族館では傘の形で展示しているのが一般的な認識ですが、実はその多くが、卵から洋ナシ型のプラヌラ期を経て、小さなイソギンチャクのようなポリプという時代を過ごしています。
“えのすい”では、クラゲからポリプを得て繁殖させていますが、実は自然界ではそのポリプをほとんど見ることができません。
どういうわけか、ほとんどの種で見つかっていないのです。

そんなポリプがこのサツマハオリムシの棲管にびっしり付着していた…ということなんです。
サツマハオリムシがちょうどよい付着基盤になっているのかもしれません。

タギリカクレエビやアマクサクラゲは、その一生の一部をサツマハオリムシと共に生きているんですね。
何もない海底では、彼らにとってハオリムシサイトはオアシスなのかもしれません。

タギリカクレエビは、“えのすい”の繁殖研究の結果、幼生は光に集まる性質があることがわかりました。
と、いうことは、親から離れた幼生たちは水面近くまで上がって成長し、再びハオリムシの元に帰ってくるということが考えられます。
しかし、どうやってハオリムシの場所を見つけることができるかなどは、まだ謎のままです。

ついつい謎があると追いかけてみたくなりますね。
とても不思議な生き物たちです。

小さくて分かりづらい生き物かも知れませんが、知ってみるととても魅力の詰まった生き物たちなので、ぜひ“えのすい”に来たときには、深海Ⅰのタギリカクレエビやサツマハオリムシの水槽を覗いて見てくださいね。

※深海Ⅰのサツマハオリムシの水槽にはアマクサクラゲのポリプは現在ついておりません。

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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