2010年07月22日
トリーター:根本

深海コーナーの裏では その 3


きょうは数日前から行方不明だったシロウリガイの生存が確認できました!
普段はジ~っと泥に埋まっているんですけどね、時々フラ~っとどこかえ出かけて行き、そのまま数日行方不明になるんです。
シロウリガイが入っている水槽には案外多くの生き物が暮らしているのですが、その中にエゾイバラガニという大きめのカニがいます。相模湾に生息しているのですが、なかなか採集できない事から幻のカニなんていわれています。
食べるとミルクのような濃厚な味わいからミルクガニとも呼ばれるこのカニなのですが、こいつ、困ったことに弱った貝を食べるんです・・・ 。
シロウリガイが行方不明になるたびに、このカニにやられたのではないかとカニの口元を見ながらハラハラしています。
心配していましたが再び定位置に戻って来てくれました。
一安心です。
飼育世界記録更新中ですからね!落ち着いて頑張ってほしいところです。

ちなみに定位置とはどこかといいますと、化学合成生態系水槽の右端の枠ギリギリの所です。
斜め上からのぞくように下の方を見ると、殻の先っちょを出して埋まっている姿が見つかると思います。
泥に穴があいていて貝が見えない時は恐怖のお出かけ中です・・・ 。

さて、“えのすい”には今書いているように飼育員が自由に何でも書ける「えのすいトリーター日誌」や「航海・採集日誌」がありますが、この文章を読んでくれた方からtwitterでコメントをいただけるようですね。
私は時代の流れにあんまり乗れてない感じの人間なので、どうやって見たら良いのかよくわからないのですが、本日親切な方が机の上にプリントアウトしたものを置いてくれていました。
コメントがもらえるのは面白いですね~。みなさんありがとうございます!
せっかくですので、シロウリガイの文章にいただいたコメントにちょっとだけ答えてみたいと思います。

Q. 猛毒の硫化水素をシロウリガイはどうやって解毒しているのか?
A. これがまだよくわかっていないんです。今まさに、研究者がそれを突き止めようとしているところです。科学の最先端の疑問なんですよ。
アミノ酸のチオタウリンというものが解毒したり、体内に住まわせている化学合成細菌に硫化水素を運んだりしているのでは!?と考えられています。

Q. 硫化水素を使ってどうやってエネルギーを作っているの?
A. シロウリガイはえらに硫化水素からエネルギーを作ることができる化学合成細菌を住まわせています。
その細菌は硫化水素からエネルギー(ATP)を作り、そのエネルギーで二酸化炭素から有機物を作り出すそうです。
この二酸化炭素から有機物を作り出す仕組みはカルビン-ベンソン回路といいます。
どこかで聞いたことある名前ですよね~、そうです、高校の生物で植物が有機物を作り出す仕組みを習う時に出てくる名前です。
植物は光と二酸化炭素を使いますが、深海の化学合成最近は光の代わりに硫化水素などを使っているんですね。
でもその有機物を細菌からシロウリガイにわたされる肝心な仕組みについては謎に包まれています。
なにはともあれ飼育するには硫化水素と二酸化炭素が重要だといえますね!

Q. 深海生物を飼育することは人間のエゴ?
A. うーむ、そういわれてしまうとそうかもしれないのですが・・・ 。
シロウリガイなんかは相模湾に棲むいわばご近所の住人ですからね、同じ地域でうまく暮らすには相手のことをよく知ることから始めるのが大切かな~と思っています。
深海なんて人が行かなければ生態系が守れるのでは?と思いがちですが、相模湾の深海にも人間が出したゴミがいろいろと落ちていますからね、人の生活と無縁でないんです。
そんな現状を伝えつつ、このようなヘンテコな深海生物の生きざまを研究し、そのようすをさまざまな方に見てもらうのが“えのすい”の役割だと思っています。
「へー、こんなのが深海にもいるんだね~」と多くの方に思ってもらえたらそれで大成功です。

他にもいろいろ質問をいただきましたが今回はこのへんで。

バックナンバー
[ 深海コーナの裏では その 2 ]
[ 深海コーナの裏では ]

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