2017年03月04日
トリーター:伊藤

新シラス展示オープンまで半月

みなさまこんにちは。
前回のトリーター日誌からあっという間に半月経ってしまいました。
「シラスサイエンス」オープンの日が刻一刻と迫っています。

2月の下旬に水槽部分の引き渡しを受けたので、新展示第一号となるシラスの育成を始めています。
水槽内をきれいに洗浄し、内部に必要な機材をセッティングの後、バックヤードの親魚が生んだ卵を入れました。
今のところ順調に育っています。

シラス育成の肝は第一に水槽の広さです。
水槽が狭くなるほど育成難易度が高くなることは、カタクチイワシ繁殖のパイオニアである「水産研究・教育機構」の方からもアドバイスされていました。
それを踏まえた上で、この 3年ほど、バックヤードでさまざまなサイズ・形状の水槽で試験をおこない「最低限この程度の広さがあれば無理なく育て上げることができる」ラインを把握してきたのです。
これらの知見を今回の展示水槽にもある程度反映させています。
きっと育ってくれる、はず・・・。


バックヤードにある現在稼働中の育成水槽。通称「シラス槽 3号」。
本水槽で得られたデータが展示槽に多く反映されています。

第二はその餌です。
生まれたばかりのシラスは 3mmしかなく、0.6mm以上あるアルテミア(当館のクラゲの主食)を食べられません。
より小さな動物プランクトンであるシオミズツボワムシ(約 0.1mm)を与えるのですが、アルテミアのように乾燥卵を海水にサラサラいれたら生まれてくるような「便利な」生態を持っていません。
よってワムシも水槽で飼育し続けて卵を産ませ、増殖させねばならないのです。
なかなか癖のある生物で、順調に殖えたかと思うとみるみる減ってしまったりと、いまだに試練を与えてくれます。
シラスは飢えに弱いので、餌のプランクトンを切らすことはできません。シラス展示の手間暇の 60~ 70%はワムシの維持であるといえます。


バックヤードにあるワムシ培養設備。

シラスに限らず、生物の飼育に絶対はありません。これこそ、生き物を育てる仕事をしている人に例外なくのしかかるプレッシャーでもあります。
失礼や誤解を恐れずにいえば、同じ博物館でも無生物を主に扱う方を羨ましいと感じてしまうことが、正直あります。
整理・作成した標本や作品が、着実に半永久的に展示できるのですから。
特にシラスは、小さいうちは体がごくごく弱い上、個体差がほとんどありません。
上述した研究所のベテラン研究員さんでも、幼魚に育つまでの生残率が 50%を超えない、つまり卵から産まれた半数以上は途中で・・・とのことです(当然、自然下における生残率よりはるかに高いと思われます)。
私たちも、ちょっとした手抜かりでかわいいシラスたちを死なせてしまった苦い経験があります。そして失敗した中には、未だ原因不明のケースもあります。
身近でありながら未知なる魚であることを実感させられます。

今回は設備というよりは、飼育員の心の裏事情をあえて晒してみました。
そんな中でも頑張れるのは、生きたシラスを見て驚き、楽しんでくださるお客さまがおられるからであり、シラスの展示が娯楽面だけではなく、教育や研究の普及の面からも意義のあることだと思えるからでしょうか。
オープンまであと半月足らず、心臓をわしずかみにしながら最善を尽くします。

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2017/ 02/ 13 新シラス展示オープンまで 1か月

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