2010年07月30日
トリーター:根本

深海コーナーの裏では その 5


今回はサツマハオリムシのお話です。
名前の通り薩摩の国鹿児島の海で発見された生き物です。調べてびっくりしたのですが、新種として記載されたのが 1997年なんですね。
ごく最近(?)発見されたばかりにしては、貫禄十分の深海生物です。
深海の化学合成生態系を知っている方なら誰でも知っているハオリムシ。すでに深海の化学合成生態系ではシンボル的な存在になっています。
それはなぜか?
彼らにはパンチの効いた強烈な個性があるからです。
『口も肛門も無い』これがハオリムシなのです。
彼らは何も食べず、硫化水素を吸って生きて行けるようです。まるで植物のようですね。
深海コーナーにはハオリムシが 3種類いますが、飼育はどれも難しいです。
ハオリムシの飼育の何が難しいのか?
それは“現場と同じ雰囲気を出す”ことです・・・。

深海コーナー正面には日光海山をイメージした水槽がありますが、ここにはサツマハオリムシがたくさん暮らしています。
日光海山はサツマハオリムシの楽園で、牧草のようにサツマハオリムシが群生しています。
自然のハオリムシは木の枝みたいな管(棲管<せいかん>といいます)から赤いエラを出していて、遠くから群生地帯を見ると、まるでお花畑のようです。
それはそれはきれいなんですよ~。
しかし、水槽ではそこまで再現できてないんです。
それはなぜか?
私にもわかりません・・・。

とにかく赤いえらを出してくれないんです。
硫化水素濃度、CO2濃度、酸素濃度、水流などなどいろいろ試してみたけれども、これといって決定的な解決策は見つからず・・・。
でも、硫化水素の濃度にはわりと敏感に反応することはわかってきました。
濃度を上げると現場程ではないですが、ポツリ、ポツリとエラを出し始めます。
濃くすればえらを出す個体数も増えそうですが、基本的には毒物ですからね、調子にのって上げすぎると同居しているイデユウシノシタがやられそうです。
この魚は化学合成生態系の住人で硫化水素に強いとは思いますが、要注意です。
そして、もう一つ水族館ならではの問題です。
それは「濁り」。
硫化水素濃度を高い濃度でキープすると水槽の水が温泉状態になり、真っ白になってしまうのです。
こうなると中身は何も見えません。
本当の深海の棲息現場は全然濁ってないんですけどね?
何が違うんでしょうか?
硫化水素の入れ方が悪いのでしょうか?
う~ん、とにかくいろいろ試すしかありません。
今の方法でもいろいろ試しますが、実は、我々には最後の手段があるのです!
その話はまた今度。

バックナンバー
[ 深海コーナの裏では その 4 ]
[ 深海コーナの裏では その 3 ]
[ 深海コーナの裏では その 2 ]
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サツマハオリムシ (C)JAMSTECサツマハオリムシ (C)JAMSTEC

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