相模湾および周辺海域における2001年以降のミドリイガイの生息状況

2009年03月
第16回 日本付着生物学会研究集会 講演/Sessile Organisms 26(2) P95
植田 育男



相模湾および周辺海域における2001年以降のミドリイガイの生息状況

植田 育男
新江ノ島水族館

研究の背景・目的 関東圏における外来種ミドリイガイPeruna viridis(以下本種と表記)については、1985年に東京湾岸で初見以後同湾内で出現地点を増やし、1988年には隣の相模湾岸で初見、1992-93年には房総半島太平洋岸および 駿河湾岸で初見され、東京湾岸から端を発して周辺海域に広がる状況が見られた。1999年実施の房総半島太平洋岸の千倉市から駿河湾岸の焼津市までの44地点における調査では、18地点で本種が見つかった。そこで2001年以降の相模湾を中心とした関東圏の海域での本種の生息状況を把握するための調査を行った。

方 法 相模湾・相模灘(以下相模湾・灘と表記)沿岸と東京湾西岸および駿河湾奥にて、大潮の干潮時に本種の着生する可能性の高い港湾施設および隣接の岩礁を対象として、徒歩で接近可能な潮間帯を探索した。本種が見つかった場合、生死の別や付着状況を記録し、写真撮影を行った。さらに直接手の届く範囲のものは一部個体を採集し標本とした。調査年は2001年と2006年-2008年で、2001年と2008年は対象としたすべての海域を調査し、2006年と2007年は主に相模湾を調査した。

結 果 2001年は32地点を調査し11地点で本種が見つかり、うち生貝確認9地点、死殻確認2地点だった。2006年は28地点を調査し10地点で本種が見つかり、うち生貝確認5地点、死殻確認5地点だった。2007年は14地点を調査し7地点で本種が見つかり、うち生貝確認3地点、死殻確認4地点だった。2008年は39地点を調査し14地点で本種が見つかり、うち生貝確認9地点、死殻確認5地点だった。調査地点数に対する出現地点数の比率は、調査地点数が少なく相模湾・灘に限定して調査した2007年は50.0%と高かったものの、それ以外の調査年では34.3-35.9%で調査年による違いは見られなかった。海域別の出現地点数では全23出現地点のうち、相模湾・灘16地点(生貝13地点、死殻3地点)、東京湾6地点(生貝2地点、死殻4地点)、駿河湾1地点(生貝1地点)で、相模湾・灘および駿河湾内の出現地点では生貝確認地点が多かったのに対し、東京湾内の出現地点では死殻確認地点が多かった。
既報の越冬に関する判定基準を援用し出現地点の越冬可否を判定した結果、15地点が越冬可、7地点が越冬不可、1地点が不明と判定され、越冬可能の地点の大半の13地点が相模湾・灘の地点だった。東京湾内唯一の越冬可能地点は火力発電所の温排水流出場所付近だった。相模湾・灘の越冬可能の地点のうち、複数年に亘って越冬可と判定されたのは5地点だったのに対し、単年のみ越冬可と判定されたのは8地点だった。また、調査年により越冬可・不可の判定の異なる地点が5地点あり、出現地点で越冬が確立されていない状況が見られた。以上のことから2001年以降の関東圏における本種の生息状況として、出現地点数の増減いずれの傾向も見られないこと、東京湾内では本種が越冬するために温排水の流出する条件が必要であり、相模湾・灘では温排水は必要とはしないものの、複数年に亘って越冬する地点が少なく、多くの地点で越冬可・不可が年により変わる現況が見られた。



Sessil Organisms 26(2) P95 掲載
著作権:日本付着生物学会
2012年3月,日本付着生物学会より転載許可

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