2010年03月
日本付着生物学会 第17回研究集会 講演/Sessil Organisms 27(2) P93-94
植田 育男 ・ 坂口 勇
九州西部沿岸における2009年のミドリイガイの分布状況
植田 育男(1), 坂口 勇(2)
(1) 新江ノ島水族館
(2) 財団法人電力中央研究所
研究の背景・目的 外来種ミドリイガイ
Perna viridis の四国および九州の沿岸域における動向について、演者は2005年に調査を行い、四国南西部と九州東部の複数の地点で本種の生息を確認した。一方2006年に九州西部の佐賀県唐津市から鹿児島県出水市までの東シナ海、有明海、不知火海に面した17地点を調査した結果、長崎市内1地点の発見にとどまり、この地域での本種の定着が四国南西部や九州東部ほどには進んでいないことがわかった。そこで先の調査から3年経過した2009年に、2006年次より調査範囲を広げ九州地方の西部で本種の生息に関する調査を行った。
方 法 調査対象地域は、九州地方の福岡県福岡市から鹿児島県鹿児島市までの東シナ海、有明海、不知火海、鹿児島湾に面した各沿岸で、調査期間は前年の調査と時期を合わせるため、2009年5月24-27日とした。
調査方法も前回と同様である。すなわち、大潮の干潮時にミドリイガイの着生する可能性の高い港湾や漁港内と周辺の護岸壁、養殖生簀、引き揚げられた漁船の船底など人工物を主に対象として、徒歩で寄り付ける場所を中心に探索した。調査地点では携行したGPSロガーの緯度・経度を記録(本文中[]内表記)し、本種が見つかった場合、生死の別や付着状況を観察・記載し、写真撮影を行った。さらに直接手の届く範囲のものは一部個体を採集し標本とした。
結 果 今調査では26地点で調査を行い、3地点で基盤に付着した生貝、1地点で死殻が見つかった。生貝が見つかったのは、長崎県長崎市京泊の新長崎漁港(浮桟橋支柱)[32.82154°N、129.76572°W]、同市小瀬戸町の浮桟橋(係留用鋼製チェーン)[32.72415°N、129.83841°W]、鹿児島県鹿児島市和田町の漁港(漁船係留ロープ)[31.50401°N、130.51900°W]で、すべて人工物に付着していた。死殻は長崎県佐世保市鹿子前町の海岸[33.15908°N、129.67907°W]に堆積したマガキ殻塊内に混在し、破砕した破片だった。新長崎漁港と小瀬戸町で標本が採集され、これらの個体の平均殻長(最小、最大mm)は新長崎漁港産が41.2(11個体)(19.1、73.7)、小瀬戸町産が28.9(29個体)(13.6、52.8)だった。発見された時期が春季で最低水温時期後であることや、新規加入時の幼貝(殻長約0.5mm)より大型であることなどを総合すると、長崎の着生個体はそれぞれの地点で少なくとも2009年冬季を越冬したものと考えられた。また、これら2地点の着生現場の個体は数十個体程度のパッチを形成し付着していた。鹿児島市の現場では直近まで寄り付けず、詳細な個体情報は得られなかった。
2006年次の調査結果と比較すると、長崎県下で長崎市内の複数地点から出現したこと、死殻ではあったものの、同県の佐世保市からも出現し、3年の経過と共に同県内で分布の広がりが見られ、鹿児島市内で2001年に初めて確認(未発表データ)された後も生息が続いていることが推察された。2006年次には有明海沿岸での生息の私信情報が得られたが、今回調査した同海域沿岸地点では本種は見られなかった。






Sessil Organisms 27(2) P93-94 掲載
著作権:日本付着生物学会
2012年3月,日本付着生物学会より転載許可