2024年10月05日
トリーター:園山

“えのすい”生まれの魚

先日、藤田トリーターがウツボが産卵するかも・・!! という内容の トリーター日誌 をあげていましたね。この仕事をしていると、どんな展示種でも水槽の中で繁殖しているのをみるのは、やはりうれしいものです。

今回はそんな繁殖している生き物の話です。

“えのすい”で繁殖個体を展示している種が複数いますが、私の担当水槽で展示している生き物の一つに、シモフリシマハゼがいます。相模湾で記録はありますが、ほとんど見かけません。

シモフリシマハゼシモフリシマハゼ

汽水域のカキ殻があるような場所や、干潟に生息する小型のハゼで、派手な魚ではありません。ただ、この魚を展示している理由があります。

えのすいには皇室ご一家の生物学ご研究の展示がありますが、実はこのハゼ、上皇陛下が皇太子時代にご研究され、名付けられた魚です。
元々はシマハゼとして知られていたハゼがいましたが、その中に 2種混じっているということを上皇陛下が皇太子時代にご発見、ご報告されたのです。シマハゼと呼ばれていたものは、現在ではアカオビシマハゼ、シモフリシマハゼの 2種に分けられました。
両種は過去混同されていたことからもわかるように、よく似ていますが、両種とも種名の通り、アカオビシマハゼは臀鰭(しりひれ)に赤い帯状の模様がはいり、シモフリシマハゼの頬部にはシモフリシマハゼ模様があることで区別できます。また生息場所も若干異なり、シモフリシマハゼはアカオビシマハゼよりも淡水の影響の強い場所に生息しています。

アカオビシマハゼアカオビシマハゼ

展示する理由は先に述べた通りですが、ただ展示しているだけではなく、どうせなら繫殖個体を展示しようと思っていました。
個人的な話ですが、私が水族館で勤務してすぐ、水族館の水槽で初めて産卵し繁殖に成功したのがこのシモフリシマハゼでした。そんな個人的に思い入れがある魚であったこともあり、採集した個体を展示・飼育していたところ、狙い通り水槽内で産卵しました。

マグロ、クエ、マダイ、トラフグなど食用になりやすい水産上重要種はさまざまな研究機関で研究され、養殖も盛んです。しかし、シモフリシマハゼのような水産上重要とは言われないような魚種の繁殖生態や初期形態や生態は、水産上重要種と比べると比較にならないくらいに少ないです。しかし、そんな研究対象にされてこなかった魚種は全国の水族館で多く展示飼育されています。

シモフリシマハゼもそんな種の一つ。
現在展示しているのは、うまく繁殖できた個体です。みなさんに繁殖した個体であることがわかるように解説も付けました。

そして最近そのシモフリシマハゼが産卵しているのを発見しました。
はじめに繁殖した個体から見れば孫が産まれたことになりますね。

先に述べたように、水産上重要種ではない種の繁殖生態や初期形態・生態は、一般的な研究機関では研究されることは少ないですが、水族館は大きな水槽もあり、そのような研究をするには格好の場所です。

これからも、水族館でしかできない強みを活かして、“えのすい”でしかできないことを模索し続けます!

皇室ご一家の生物学ご研究

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