2007年09月10日
トリーター:寺沢

噛むな、「シェリル」

「シェリル」よ、たのむから噛まないでおくれ、
「シェリル」よ、いい子だから噛まないでおくれ、
噛みたくなったら、戸倉さんの指、手にしておくれ、
噛め、噛むんだ、「シェリル」、戸倉の指を、手を、
聞こえるかい、「シェリル」


いつの間にか、繰り返し繰り返し、呪文のように、心の中でそう唱え続けた。

第 13回日本野生動物医学会が盛岡で開催され、昨年同様、ポスター発表でのエントリーだ。
今では、海獣類の分野においても超音波検査は日常的におこなわれているが、おそらく、日本、あるいは海外の水族館を見渡しても初の試みであろう、イルカの食道からアプローチする超音波検査が今回のテーマだ。
ヒトの医療においても最先端の方法で、最新の機器だという。主に、循環器科、麻酔科で用いられており、心臓の観察に適応しているとのこと。

ここ数年、海獣類の超音波を試験的に多方面からおこなっている。妊娠診断、臓器の観察、異物の有無など、バンドウイルカ、カマイルカ、オットセイ、カリフォルニアアシカ、オタリア、ほぼ飼育している海獣類全種に、ウミガメだ。
今回は 800万円もする、探触子(プローブ)を無謀にもバンドウイルカの口の中に入れた。もちろん、心臓の観察が目的だ。

が、バンドウイルカの歯は尖っている。探触子を噛まれたらお終いだ。
「一噛み、800万円也」の文字が一瞬脳裏をよぎる。
観察 2日 8回目の試技の時だった。「シェリル」の眼光が鋭さを増してきた。
やめてくれよ。小さく十字を切り、神に祈る、ジーザス・クライスト、と。

イルカの口から深さ 100cmで肝臓の一部が見え、体表からの超音波画像と比べて鮮明で、肝静脈および門脈の走行の一部も認めた。
深さ 60~ 80cmで大動脈が、その直径は深さ 80cmで収縮期 約 4.2cm、拡張期約 3.8cmだった。いずれの位置においても、描出画像に対して大動脈は向かってくる血流で、その拍動は 6秒間に 3~ 4回であった。でも、心臓を明瞭に描出することができず、残念。

いつの世でも、どの分野においても、新しい試みを最初におこなう時には、常に危険と隣りあわせだ。「シェリル」、いい子だったよ。

経食道超音波検査経食道超音波検査

イルカショースタジアム

RSS