2008年02月20日
トリーター:岩崎

偽物にご用心

昨年は世相を表す漢字として「偽」が選ばれましたが、今年も再生紙の偽装問題などが発覚したように、世の中には偽物が氾濫しているようです。

実は海の中にもたくさんの「にせ」といわれる生き物たちがたくさん存在します。
単に姿形が似ている者がほとんどなのですが、中には確信犯的な者もいて、わたしたちも被害?にあうことがあります。

みなさんはクリーニングフィッシュとして有名な「ホンソメワケベラ」をご存知ですか?
全長 12cm程度。小柄なベラの仲間で、黒いラインと鮮やかな青いラインが特徴的の魚です。
おちょぼ口で、他の魚に付いた寄生虫を食べて生活しています。
特徴的な体の模様と独特のダンスを踊り、「ホンソメワケベラだよ!」と他の魚に知らせます。寄生虫を食べてくれることを知っている魚たちは、近づいてきたホンソメワケベラを食べてしまうことはありません。
大きな魚でも、えらや口の中にまで入れて寄生虫を食べてもらいます。ホンソメワケベラが付いている場所は、寄生虫の掃除を待つ魚たちで行列ができることがあります。
魚類界では寄生虫よる健康被害が大変深刻なようで、水族館でもホンソメワケベラと一緒に生活している魚の方が、健康で長生きをする傾向が見られます。
ところがこのホンソメワケベラに姿形がそっくりな「ニセクロスジギンポ」という魚がいます。
ニセクロスジギンポは、他の魚のウロコや皮膚を食べて生活しています。見た目だけではなく独特のダンスまでもが得意なので、魚たちもだまされてしまいます。
独特の模様、ダンスを踊りながら近づくニセクロスジギンポ。うっかり懐にいれてしまうと突然の痛み!ウロコや皮膚を食いちぎって逃げていきます。

「ホンソメワケベラ」と「ニセクロスジギンポ」は本当にそっくりです。水族館人としては恥ずかしい話しですが、私もだまされてしまった者の一人です。

ホンソメワケベラと他の魚の関係を展示しようと、ある業者さんから「ホンソメワケベラ」を購入して水槽に入れました。
展示の目的通り、ホンソメワケベラが他の魚に近づいて体をつついていますが、なにやら様子が少しおかしいように感じました。つつかれた魚が嫌がって逃げていたのです。ホンソメワケベラを知らない若い魚は、初めの内は掃除されることを嫌がることがあると聞いていたので、しばらくようすを見ることにしました。
翌日水槽を見てみると、なんとつつかれていた魚の皮膚がボロボロになっているではありませんか!
「ホンソメワケベラ」と思って入れた魚が、じつは「ニセクロスジギンポ」だったのです。
この 2種類を見分けるポイントは、口の付いている位置です。体に対して口が真っ直ぐに付いているのが「ホンソメワケベラ」、下向きに付いているのが「ニセクロスジギンポ」です。
確認を怠ってしまったことで、一緒に入れた魚には大変申し訳ないことをしてしまいましたが、良い教訓になりました。
ニセクロスジギンポは、生存競争の厳しい自然界で生き抜く手段として、長い時間をかけて身につけた「偽装」です。信頼関係やモラルが重要な人間界とは違って、一概に悪者扱いはできません。

何事においても偽装を見抜き、本物を見つける眼力が必要ですね。

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