2008年10月09日
トリーター:足立

クラゲモリノヒトリゴト 弐拾弐

オワンクラゲの思ひ出

むかしむかし、私がまだ、時間なんてたっぷりあるさと思っていた頃、たいそう大きなオワンクラゲが 4つか 5つ、江の島の沖で採れました。
光るクラゲだということは聞いておりましたので、夜、水族館の電気が消えるのを待って、そおっと、そのクラゲに触ってみました。
すると、最初のクラゲでは、傘の上に、うっすらといくつかの光る点がほわっと現れて消えました。
もうひとつやってみようと、別のクラゲに触ってみると、今度は傘の縁と、傘にある何本かの筋がぼやっと光りました。
結構弱い光なんだな・・・ と思いました。

このオワンクラゲのいくつかは展示し、残りは裏の予備槽で飼っていましたが、浮遊生活にはいつか終わりがやってきます。
透明な傘に少しずつ不透明な部分が見え始め、丸い傘は歪んだり折れ目ができたりし、やがてみな、その一生を終えてゆきました。
一見何もいなくなった水槽。
「なにもいないと思っても、餌をやり続けるんだ。」
古い友人の言葉に従って、私も十数日間だったか、その水槽に餌を入れ続けました。
するとある日、いつものように餌を入れようとした時、水槽のガラス面をよじ登るかのような、糸状のものが視野に飛び込んできました。
それは私の期待したもの、あの、ぼんやりと光ったオワンクラゲたちが残していってくれた、ポリプだったのです。

時は流れ、経験は蓄積され、技術も設備も充実し、反対に、私の持ち時間はもうたっぷりとはないようにも感じるようになったきょうこのごろ。
つい数日前まで水槽にいたオワンクラゲが、あのとき採れたポリプ由来のものであったかどうかはわかりません。
でも、オワンクラゲを見るにつけ、私はあの微かな、しかしクラゲ自身が放った光と、蔦のように水槽をよじ登ってきたポリプを思い出すのです。

一躍有名になったオワンクラゲですが、新江ノ島水族館のオワンクラゲは、今はポリプの状態です。
たぶん、クラゲを取り巻く世界が少し落ち着きを取り戻した頃に、さりげなくクラゲを遊離させるのではないかなという気がしています。

最後になりましたが、下村脩博士、ノーベル化学賞の受賞決定、おめでとうございます。
私の知る限りの人々がみな純粋に喜んでいます。
そしてそのことがとても嬉しい、クラゲモリなのであります。

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