2009年06月10日
トリーター:寺沢

20日間の漂流

迷走の末、大海原に姿を消した、マッコウクジラ。
これほどまでに長い間、漂流して野生へと戻っていったのは珍しい。

和歌山県田辺の内ノ浦湾に迷い込んだ雄のマッコウクジラ(体長約 15メートル、推定体重 50トン)が 6月1日、内ノ浦湾から自ら抜け出し、外洋に面した田辺湾で泳いでいるのが確認され、2日午後、白浜沖での目撃を最後に姿を消した。

1,200m以上の暗黒の深海に1時間潜水して食物をとる、マッコウクジラ。
食物のほとんどはイカで、深海まで潜ってダイオウイカを捕食する動物はマッコウクジラ以外にはいない。
口の回りや頭にダイオウイカの吸盤の痕が残されていることがある。

全世界の海域に広く分布し、季節によって回遊する。

実は、江の島にも、その姿を現したことがある。
新江ノ島水族館が開館する一年前の 2003年4月24日、鵠沼海岸。

一瞬、白鯨なのかと目を疑った。
巨大な頭、細く長い下顎、頭部前端の左隅にある噴気孔。全身の白い皮膚。

が、しかし、背びれや尾びれの一部を欠き、ところどころに残る黒い皮膚。
下顎の一部は爛れ露出する骨。特有の腐敗臭。
明らかに、死亡後かなりの時間が経ち、荒れる海に漂って流れ着いた、マッコウクジラ。
残念ながら、腐敗が酷く、性別までは不明。

迷走したマッコウクジラは、その裏で多くの人が奔走していることを知る由もなし。
今ごろ、いずこを泳いでいるのやら。

2003年4月24日 鵠沼海岸2003年4月24日 鵠沼海岸

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