2011年02月23日
トリーター:根本

深海コーナーのちょっとしたお話


新江ノ島水族館では深海底化の海底火山や地殻の沈み込み帯でできる“化学合成生態系”という生態系の生き物をたくさん飼育していますが、なんでもよく食べるものも居ればバクテリアしか食べない超偏食なもの、中には水中の硫化水素やメタンとCO2だけで生きていくガスだけで生きていく仙人みたいなものまでいて、飼育はなかなか大変です。
ちなみになんでもよく食べちゃうのはユノハナガニ。
マグロの切り身やオキアミ、アサリなんかを与えていますが、何でもガツガツ食べてくれるます。
ただ、餌だけならいいのですが、油断していると同じ水槽に入っている生き物を襲って食べようとするから大変。
目なんて退化しちゃっていて見えていないはずなのに、泳いでいるオハラエビにツメでアタックをかけたり、フジツボのフタを強引にこじ開けて食べようとしたり、なかなかヤンチャな行動をとります。
なので開館中に監視が行きとどかないユノハナガニの展示水槽には、他の生物が入っていないんです。

でもバックヤードでは、深海のフジツボやヒバリガイと一緒に暮らしています。
最初はユノハナガニが近づけないような場所にフジツボたちを設置したりしたのですが、ユノハナガニの行動力は物凄く、忍者のようにどんな障害も乗り越え侵入してきてしまいます。
そこで、現在は狩猟本能を抑え込む作戦をとっています。
この作戦は
「ユノハナガニもお腹がすくと他の生き物を襲ったりユノハナガニ同士で喧嘩したりするよう感じがする」
という直感が頼りの作戦ですが、作戦内容は「これでもか!」と多めの餌を与えて満腹にさせ気持ちを穏やかにさせるというものなのです。
この作戦が成功したのか、ユノハナガニもフジツボを無理に食べようとせず、フジツボもユラユラと蔓脚(まんきゃく)を出して元気な姿を見せてくれており、ユノハナガニ同士の喧嘩も見られなくなり、仲よく平和に暮らしてくれています。

このような、潜水船では観察できなような生き物のちょっとした行動や他の生物との関係性が見られるのも、飼育の醍醐味ですね。
深海生物の生態を知るうえで、飼育は大事です。
“えのすい”では展示水槽でもいろいろと実験していますので、ぜひじっくりと観察してみてくださいね。

今の見どころはサツマハオリムシ水槽のオウギガニです。
卵を産んでお腹に付けています。
あの水槽はハオリムシの餌として硫化水素を使っていますので、化学合成バクテリアが大量に増殖しています。
なのでお母さんオウギガニは、卵のクリーニングに余念がありません。
抱卵している姿も今後見ることがあるかどうかわからない珍しいことですので、来館された際にはぜひ見てあげてくださいね。

ユノハナガニ (C)JAMSTECユノハナガニ (C)JAMSTEC

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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