2012年05月03日
トリーター:唐亀

ふらふら 「フララ」 ll

「フララ」と「フララ」と

相模湾大水槽のナンヨウツバメウオ「フララ」。
うおゴコロでご紹介していますが、地味な上、あまり目立たないので印象に残りにくいかもしれません。
しかし、個人的にはかなり思い入れのある魚の一つです。

「フララ」はまだ私がイルカの担当だった頃、現在の川魚のジャンプ水槽の所にあった死滅回遊魚水槽にやってきました。
まだ、幼魚で枯葉のような姿と体色をしていました。
少し成長して、ちょうど私が魚類の担当に異動したころに、現在のマングローブ水槽(冷たい海・暖かい海ゾーン)に移りました。
そして、展示替えにあわせて相模湾大水槽へ移り、今に至ります。
その頃すでにうおゴコロはおこなわれていましたが、小さな頃からガラス越しとはいえ我々の姿を見て餌をとっていたので、すぐに手元に来て餌をとるようになりました。

相模湾大水槽の魚たちの多くは定置網などに入った魚です。
水槽に入れる前には検疫や餌付けをおこなうのですが、魚が大きかったり、マイワシなどのように弱い魚は直接水槽に収容します。この時、招かれざる者が水槽に侵入することがあるのです。
「はだむし」。
魚の体表に吸付き、体表の粘膜を食べる寄生虫です。
これがつくと粘膜が厚くなり、目につくと白く膜がはって視界がきかなくなります。
体を岩に擦りつけ怪我をしたところから二次感染を起こすこともあります。
これを駆除する薬を期日を決めて餌に混ぜて投与していますが、薬の味が気に入らないのか、食べない魚もいるのです。
「フララ」もそうなのですが、悪いことにツバメウオの仲間は、はだむしがつきやすいようなのです。

はだむしの数が少なければ普通に生活しているのですが、数が増えてくると体を岩に擦りつけて痛々しい傷を作って、調子悪そうに岩の陰でじっとしてしまいます。
そうなると網で捕獲して淡水浴をさせるのです。
はだむしは海水でしか生きていけず、淡水では白くなって死んでしまいます。
効果は抜群なのですが、「フララ」自体も海水魚です。長くは淡水にいる訳にはいきません。
また、網ですくうとどうしても体に傷がついてしまいます。
あまりおこないたくはないのですが、「フララ」は一月おき位に淡水浴をおこなっていました。

大型連休前、また「フララ」の体にはだむしがつき出しました。
光のかげんによってはだむしが見えるのですが、額から背中にかけて何時になくたくさんついているのです。
額に大きな擦過傷ができ、痛々しいことこのうえない状態でした。
いつものように淡水浴をしたいのですが、今回は目にほとんどついていないのです。
視界がきくうちはさすがに逃げ回り、なかなか網に入りません。
手からアサリを食べるので、薬を塗して与えようとも思いましたが、やはり薬は気にいらないようで段々食べなくなってしまうのです。
悩んでいた所、ある日ショー後に擬岩を歩いていると、水面ぎりぎりの所で岩に寄り添うようにじっとしています。
駄目で元々と網とバケツに淡水をくんでそーっと近づきました。
「フララ」は左の目をこちらに向けました。
『気付かれた・・』
と思いました。
実は「フララ」は右目が見えないのです。
2年前位にはだむしがついた時、目に傷をつけそこから二次感染を起して腫れてしまいました。
薬を詰めたアサリを与え、目は無事だったのですが、視力はまったく失ってしまいました。そのため、水の中でも我々を確認する時には左側をこちらに向けてくるのです。

「フララ」は確実にこちらに気づいていたと思います。
いつもならここで逃走している所ですが、この時は拍子抜けする位あっさりと網に入ってしまいました。
そして淡水浴をすると・・・
出るは出るは、鳥肌が立つくらいです。
約 3分ほど経つと、白くなったはだむしがはがれ落ちていきます。
水槽に戻すと、一目散に深みに行ってしまいました。

淡水浴のあと、もう一度調整のために水槽に潜り、一通りの魚たちの相手をしていると、「フララ」がぼーっとしていました。
いつもなら逃げていくのに、今回はハッと気がついたように寄って来てアサリを食べたのです。
手がかかる子ほどかわいいといいますが、魚であっても何らかの信頼関係が築けるのではないかと思うのでした。

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