2013年02月04日
トリーター:伊藤

どこへ行ってた!サツキハゼ


暖かい海ゾーンのドロップオフ水槽(テンジクダイ類やチンアナゴがいる水槽)にサツキハゼが戻ってきました!

・・・ これを聞いて「ふ~ん、新しく水槽に入れたのね」と思うでしょう? 違います。
確かに過去、サツキハゼを入れたことはありますが、もう 1年近くも前です。
しばらく水槽で群れてくれた彼らですが、ある時、急速に姿を消しました。
この頃に同居させた魚に食べられてしまったのかと疑ったものの、襲われる現場を押さえた者は誰もいませんでした。
彼らがいなくなったことを悔やみつつも、捕食の容疑魚を疎開させたり、ポスト・サツキハゼとしてオグロクロユリハゼを展示したりしました。
年末の大掃除の時には、1~ 2匹だけ岩陰から見つかり、もしやどこかに?とちょっとだけ思いましたが、確信には至りませんでした。

それが最近になって、日にもよりますが 20~ 30個体ものサツキハゼが何食わぬ顔で、泳いでいるのです。
「いったいどこに行ってたのだ!」と「おかえり!」代わりにいってやりたいです。

実は本種には、想像を絶する「隙間潜り能力」があることが分かっています(研究発表)。
水族館の近くでは、「人工のドロップオフ」ともいえる岸壁沿いでよく見られますが、驚かすと岸壁に付着した貝やフジツボの隙間に吸い込まれるように逃げ込みます。
以前、仲間と一緒に境川河口で調査した時のこと。岸壁に付着したゴカイの巣(棲管)の塊をはぎ取り、ざくざく砕いてゆくと、小さなカニとともに大量のサツキハゼが出てきたのです。
まさに「スイカの種」状態。
棲管の穴や隙間は、楊枝でもほじくるのがつらいほど、せまいのです。
しかもサツキハゼ、たいへん忍耐強く、棲管の塊をいくら水ですすごうと、空気中で振ろうと、逃げ出てきません。
入念に洗った棲管やカキ殻の塊を持ち帰り、水槽内に入れておいたらサツキハゼだらけになったこともあります。

今回、驚いたことは、水温が一定に保たれた水槽内において、実に半年以上も、水槽内のどこか(おそらく模造岩の裏や、砂の中)で隠れっぱなしでいたことです。
ハゼの仲間は魚類の中では研究がなされている方ですが、種類が多いこともあり、生態や行動に関してはまだまだ謎だらけです。
隙間や土中で一生の大部分を過ごすらしい種も知られています。
そんな謎の一端でも、解明に寄与できて良かったと思っています。

ともあれ、彼らの体の柔軟性と、頑固なまでの忍耐力、どちらも持っていない私としては、ぜひあやかりたいものです。



◎外来多毛類カニヤドリカンザシの棲管の間隙から
 得られた多数のサツキハゼ[研究発表

サツキハゼサツキハゼ

皇室ご一家の生物学ご研究

RSS