2013年06月19日
トリーター:根本

サツマハオリムシのお話

サツマハオリムシサツマハオリムシ


深海好きの方は一度は耳にしたことがある“チューブワーム”の仲間。

それらの生物は、太陽の力を借りず深海底から湧き出す化学物質のみで生活をしている。
その生活は慎ましいものではなく、砂漠のオアシスに集まる動植物のように物凄い数の生物たちが生きいきと暮らしている。
その生態系は我々が住む太陽と光合成を基盤とする世界とは異なる別の生態系、「化学合成生態系」と呼ばれている。

そのチューブワームの中で最も浅い所に棲むのがサツマハオリムシ。

その名の通り鹿児島湾で発見され、新種として記載されまだ 16年しかたっておらず、まだ分からないことが多い生物ですが、ハオリムシの中では唯一なんとか飼育が成功している種なのです。

私の知る限りサツマハオリムシの現在飼育をおこなっているのは「かごしま水族館」、「JAMSTEC」、「北里大学」、「油壺マリンパーク」そして「新江ノ島水族館」の 5か所。
一般に公開しているのは「かごしま水族館」と「新江ノ島水族館」の 2か所。
「JASTEC」でも個人見学ツアーに参加すれば見ることができるかと思います。

飼育方法は大きく分けて 3つ、その中でも最も古典的でオーソドックスな方法で飼育しているのが新江ノ島水族館です。
サツマハオリムシの餌は硫化水素。彼らはこの猛毒の化学物質を、体の中にすまわせた細菌にエネルギーに変換させて、それをもらって生きています。

新江ノ島水族館では「硫化ナトリウム」を水に溶かして少しずつ入れることによって硫化水素を作り出して与えています。
難しいのが濃度の維持。
硫化水素を消費するのはハオリムシの中の細菌だけではなく、水槽内のガラス面や石、濾過槽内の炉材に大量に発生した化学合成細菌が横取りしてドンドン消費してしまうのであっという間に濃度が下がってしまう。
それをどうやって濃度を維持するか?
維持する濃度はどのくらいが良いのか?
何回も実験を繰り返して一つのセッティングを出せたのが 2010年、これのおかげか2009年に採集されたサツマハオリムシが 4年たった今でも元気いっぱいです。

さて、これでひと段落していたサツマハオリムシですが、今回もう再びスポットを当てていきたいと考えています。
いろいろな研究機関の方と一緒にこの飼育方法を科学的なメスを入れて検証していきたいと思います。
研究者の方も多いので日誌でどこまで公開できるかわかりませんが、水槽内に目的の細菌が増えているのか?
それらがハオリムシの中にも増えているのか?
水槽内がどれだけ深海底の環境に近づいているのか?
知りたいことは山積みです。
水族館では不可能な遺伝子解析が今回のキモになりそうです。
いろいろ面白いことがわかりそうです!お楽しみに!

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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