2014年02月15日
トリーター:伊藤

クマノミ繁殖成功!

クマノミクマノミ

バックヤードからうれしい報告です。
新江ノ島水族館オープン以来、初のクマノミ繁殖に成功しました。

世界初の快挙、とかではないのですが、それでもグッピーやメダカみたいにはいきませんし、水槽内で産卵していつの間にか稚魚が育っていた、なんてことはまずない魚です。育て上げるには、それなりのハードルを丁寧にクリアしていく必要があります。

第一関門は稚魚のとり上げです。
当館では水量のあるサンゴ水槽で産卵しています。岩に産み付けられた卵はふ化前になると目ができてギラギラ光り出します。先人の知恵で、日没後数時間以内に一気にふ化することが分かっていますので、予定日の夕方にはウエットスーツに着替えて、閉館の消灯と同時に、卵の産み付けられた岩場に忍び寄り、袋状のトラップを仕掛け、「なるべく早くふ化してね」と願いながら、今か今かと待つのです。ふ化直後の赤ちゃんは、スペ○ンカーも真っ青の打たれ弱さ!網ですくうなんて論外で、水ごと、ふわりと、やさしくすくって育成用の水槽に入れなくてはなりません。今回の産婆役は私でした。

第二関門は初期の餌です。
モノは生きたプランクトン。クラゲ用のアルテミアでは大きすぎるようなので、より小さなワムシを与えます。餌培養のスペシャリスト、櫻井トリーターが丹精込めて、栄養満点に育てたワムシを「食べるのを確認しながら」「多すぎず少なすぎず定期的に入れ続ける」手間のかかる作業です。

第三関門はお掃除です。
 クマノミの赤ちゃんの打たれ弱さは餌を食べてても相変わらずで、10日以上続きます。スポンジで掃除どころか、弱めの濾過もつけられないので、頻繁かつ丁寧な水替え掃除が必要です。落ち着きと愛情ある作業が定評の富永トリーターが、来る日も来る日も世話してくれていました。

 そうこうしつつ迎えたある日、半透明な「育っているのか不安」だった赤ちゃんに、色と模様が突然表れ、ミニチュアのクマノミらしい姿となりました。ここまでくれば一安心と言えるでしょう。

先輩トリーターにお話を聞くと、旧館時代にはクマノミ類はもとより、いろいろな魚を繁殖させたといいます。新館となり、心の余裕のなさから、水槽内で産卵行動や卵を確認しても横目で見逃すしかないことも、正直あります。種の繁殖は水族館で使命でもあります。繁殖やそれに資する技術を確立し、技術として効率を高めたり、論文として伝承していくことで、誰もが活用できる知的財産として光を放ち続けてくれます。何とか今後も手掛けてゆきたい気持ちです。

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