2015年12月31日
トリーター:根本

水槽と生き物

10年近く生物を飼育していると、ベストな飼育方法についていろいろ考えることがあります。
私が飼育方法の良くわからない深海生物を飼育しているためなのか、いつも「もっと良い飼育方法は無いのか?」が頭の隅にあります。
そして最近思うのです。生物の飼育はやはり「水槽作り」がキモなのではないかと。

飼育というと「給餌」や「展示方法」、「レイアウト」、「繁殖」「病気の治療」などに目が行きがちですが、「飼育設備の能力を最大限に引き出すセッティングを取る能力」、これが重要であり全ての土台であるように思うのです。
つまり「水作り」「水使い」が飼育を制するのではないかと思うのです。

「それは基本でしょ?」と思う方も多いかと思いますが、水の状態を知ることや安定した水を作る事は案外難しいものです。
当館でも水温、pH、塩分、DO、硝酸、亜硝酸、アンモニアなど解析をおこない水の状態を解析していますが、これらの数値では「飼育に適さなそうな環境」はわかっても「ベストな環境」はわかりません。
さらにこれらに異常が無くても、病気になったり死んでしまうこともあります。
つまり我々に見えていない要素が「ストレス」として飼育生物の生死に関わっていることが多いということです。

要素としては「水温の微妙な上下」や「海水の組成」や「細菌の種類」などが考えられます。
水族館の水温制御は大がかりな設備を用いて行ってはいますが、一定に保つのは難しく、深海の水槽では現在 50分毎に約 0.7℃の幅で上下しています。
海水については新江ノ島水族館では目の前からくみ上げていますが、この辺りは住宅地が近く、観光客も多い地にあり、おまけに「境川」という二級河川がすぐ横に流れ込んでいるので、潮の流れや季節、天気、さらには曜日によって違いがある可能性がありますし、人間活動が多ければ有機物が多くなるでしょうから病原菌などが増える可能性があります。
「海水の組成」や「細菌の量や種類」などは水族館では簡単には調べることはできませんので、普段はブラックボックスとなってしまっていて現状が全くわかりません。

これを気にするか気にしないのか。どこまで突き詰めるか。

私は新たな時代の水族館を目指すにはこれらを「可視化」していく必要があると思います。
水族館の飼育もまだまだ経験や勘に頼る部分が多くありますので、もう少し科学的に飼育ができるようになればと思います。
来年は「水槽作り」を突き詰めてい行きたいと思います。

さて!いろいろ考えているうちにメンダコがやってくる季節となりました。
なかなか長期の飼育ができない生物です。
今考えるベストな水槽で迎えたいと思います。
昨年を越える長期飼育ができるかどうか。 お楽しみに!

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

RSS