2016年05月19日
トリーター:北嶋

貴重な標本

春から標本整理の担当に任命されました。
“えのすい”は水族館なので、基本的には生きている生き物を対象に扱っているものの、貴重な情報として残しておいた方がよい生き物は、その命をまっとうしたあとも「標本」としてさまざまな状態で保存します。中には博物館や研究所に預けて保管をお願いしている標本もありますが、一部は“えのすい”のバックヤードにある標本室で保管をしています。この標本室は小さな部屋ですが、所狭しと標本が置いてあります。

旧・江の島水族館が開館したのは 1954年(昭和 29年)のことですから、いまから 60年以上前の標本があってもおかしくありません。
膨大な量の標本をどこから片付けたら良いのか・・・悩みながらなかなか手をつけられずにいます。

つい先日、訳あって乾燥標本の掘り出しをしました。
そこで、とても貴重な古い標本を発見しました。
「オキナエビスガイ」
です。

深海にすむ原始的な形態(貝殻の入り口にある深い切れ込み)をもつ深海貝で、いわゆる「生きた化石」と呼ばれる生き物のひとつです。
江の島とのゆかりも深く、明治時代にヒルゲンドルフというドイツ人の動物学者が江の島を訪れた際に、土産屋で売っているのを見つけ、非常に珍しい貝だということで新種登録されました。
オキナエビスガイの仲間のテラマチオキナエビスガイだとかベニオキナエビスはときどき南の方で採集されるようですが、「オキナエビスガイ」という種は、いまでも非常に珍しく、おそらく生きた状態で見たことのあるスタッフはいないのでは。開館初期を知っている上司でも見たことがないそうです。

見つけた標本もかなり古そうです。
貝殻の中には、貝を保護するためか綿がつまっていて、抜き出してみると新聞の破片もはいっていました。
ぐちゃぐちゃになっている新聞をそっと広げると、この貝がやってきた時代がなんとなく紐解けそうな予感が。



残念ながら年が表示されている部分がないので、その内容から予測するしかありません。「吉田首相が~」という文章がありました。吉田茂が首相に在籍していた時期を調べると、旧水族館が開館した年まででした。
ということは、このオキナエビスガイはそのくらい古いものではないかと思われます。

展示できる準備ができたら、この貴重な標本をウェルカムラウンジで展示したいなと考えています。
お目見えするまで今しばらくお待ちください。

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