2020年07月01日
トリーター:西川

“えのすい”にもオウムガイ

みなさん“えのすい”にオウムガイがいることを知っていますか?
おそらく、ほとんどの方が知らないと思います。それもそのはず、オウムガイはバックヤードにしかいないんです。今回は、普段見ることができない“えのすい”のオウムガイを紹介します。


オウムガイ水槽

オウムガイはこんな水槽で暮らしています。光がほとんど届かない水深 200~ 600mに生息しているので水槽には暗幕をかけ、くっついてじっとするためのサンゴ岩やネットを置いています。約 90本もある触手でさわさわと何かを探しているようなようすは、気持ち悪くもずっと見ていられます。通常はじっとしていますが、暗幕をあけて光が入ると口先にある漏斗から水を出したり、止めたりして振り子のように動きだします。

オウムガイの詳しい生態、飼育についてもお伝えしたいのですが、書いてしまうとかなりの長文になりそうなので、それはまたの機会に。今回は繁殖に焦点を当てて紹介していきます。
昨年まではこの水槽に雄雌 2個体ずつ、計 4個体のオウムガイがいましたが、現在は昨年産卵したお母さんオウムガイが 1個体暮らしています。

オスとメスを見分けるのは殻の内側を確認すると分かります。


メス


オス

これはオウムガイを逆さにして、軟体部が垂れ下がってできたすき間を映したものです。オウムガイにとっては少しつらい体勢になりますが、繁殖が可能かどうかを確認させてもらいました。メスの場合は殻の奥の方に白や黄色に見える器官があり、オスでは画像の中心にあるペニスと殻の突起があります。
昨年は 50を超える数の卵を産んでくれました。産卵から孵化までの約 10か月は不安と期待の気持ちでいっぱいでとても長く感じました。水温や光の当たり方など、卵の管理方法を試行錯誤しながら飼育していましたが、残念ながら一歩及ばず。孵化の直前まで成長しましたが、“えのすい”初のオウムガイ繁殖とはなりませんでした。


孵化直前のオウムガイ

画像の個体はすでに卵殻から出ていて成体と同じ姿をしていますが栄養となる卵黄をまだ吸収できてなく、体勢は保てるものの泳ぐことはできず、殻から出てきた 3日後に死亡してしまいました。水温の管理や親の栄養不足などの反省点がたくさんあり、リベンジしたい気持ちはありますがメス 1個体では繁殖はできません。
そして、現在は新しいオウムガイを迎え入れるのも難しい環境にあります。実は、オウムガイは2016年にワシントン条約(CITES)の附属書Ⅱに掲載され国際的な取引が規制されたことで、日本に分布していないオウムガイの入手は難しくなりました。そのため、これまではさまざまな場所で飼育されていましたが、最近では見られる場所が少なくなっています。

生きた化石とも呼ばれ、生物の進化を考える上でも重要な立場にいるオウムガイをこのまま無き者にしてはいけない、と奮闘しましたが残念ながら願いは叶いませんでした。
初のオウムガイ繁殖とはなりませんでしたが、交接や産卵のようすなど繁殖に関わる情報を初めて得ることができました。このままバックヤードで飼育していてはみなさんにオウムガイの魅力を伝えることができないので、いつかこの情報とともに展示に出せたらいいなと思っています。

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