2022年12月20日
トリーター:石川

ジェンダーフリーという生き方?

一般にペンギンは雄と雌で番(つがい)となって繁殖をおこなうというイメージがあります。
“えのすい”でも雄と雌の番が雛(ひな)を育てますが、それ以外に雌と雌のペア(つがいを雌雄が形成するものと仮定すると、それ以外の結びつきをここでは仮にペアと記載します)がいます。
他の施設ではさらに雄と雄というペアも報告されています。
すべてのペアがペンギンの意図として一緒になったわけではなく、例えば雄が3羽、雌が1羽という環境の中で、雌を 3羽の雄で奪い合ったのち、雌と雄の番と、雄と雄のペアができることもあると思いますし、その逆もあると思います。

“えのすい”の雌と雌のペアではそういった経緯以外にも一緒になっているケースがあるようです。
12月20日が26歳の誕生日の「セサミ」と、年上で 1月に29歳になる「ハク」の雌雌ペアです。
以前「ハク」は「ジャンボ」という大きな雄と番で、「グー」、「コハク」、「ユメ」、「サン」と他の施設へお婿(むこ)にいった、「ムーン」と「ノゾミ」というたくさんの子どもを育てあげ、「ジャンボ」とも仲睦(なかむつ)まじい関係でした。
「サン」と「ムーン」が生まれてそろそろ巣立ちを迎えるころに「ジャンボ」が急逝し、そののち近くに縄張りを持っていた、「セサミ」が一緒にいるようになり、今はペアとなって同じ縄張りを守っています。
「セサミ」は同い年の「クッキー」と一緒になり、2001年12月26日に「チョキ」が孵化し、2羽で育て上げています。
当時の雌雄判定の確定は産卵や交尾行動が一つの目安になっていて、「セサミ」は当館で最も小柄で「クッキー」は大柄でした。そこに「セサミ」が卵を産んだので、「セサミ」が雌、「クッキー」が雄と思い込んでいました。育雛(いくすう)も、縄張り争いも他の番と何ら違いもなく「チョキ」を育てあげたので、疑うことはありませんでした。

さて、フンボルトペンギンはワシントン条約付属書Ⅰに記載されていて、最も取り扱いの厳しい分類で保護されています。
国内で飼育されている1,900羽を超えるすべてのフンボルトペンギンの雌雄と血縁関係を解明し、野生からの導入をおこなわず国内飼育個体全羽で血統管理をおこなうために、2010年より国内すべてのフンボルトペンギンの雌雄判定と親子関係をDNAで調べることになりました。
この調査結果で初めて「セサミ」も「クッキー」も雌であることが判明しました。
ちなみに「チョキ」は当時生存していた雄「ポー」と「セサミ」との子だったのです。

さてこうなると、周囲に気にいった雄がいたにも関わらず、交尾はしたけど雌個体とペアになり、そのペアで雛を育てたということになります。最初にお伝えした環境や飼育個体の雌雄の数にかかわらず、雌とペアになることを選んで、雄と交尾をして雌雌のペアで育雛をしたことになります。
これは私としては少し驚きでした。例えば家禽のような状況であれば野生とは特異な状況からそういった環境や個体の雌雄数の影響を受けて起こることもあると思っていたのですが、選択域があってなおかつ、対象となる雄と交尾に至っていても相手には雌を選んだことになります。
野生では起こらないことと勝手に思っていたことが、ひょっとすると野生でもあるのではという疑念に変わっていきました。
今のところ野生のペンギンで群れ単位のすべての番と思われるすべての雌雄判別を調べた研究はないようで、しいて言うならば巣に卵があるか、ないかという調査でたまに、通常フンボルトペンギンは 1回の産卵時に卵は 2個とされているのですが、巣に 2個以上の卵があったという話は聞いたことがあります。

さてこのことがあってから雌と雌が一緒にいることを不自然に思わなくなったのですが、近年高齢化が進むとあちこちで雌と雌のペアが生まれているのです。
この中にはかつて他の雌と激しい雄争奪(そうだつ)戦をおこなった「ルビー」と、若い頃はペンギンより人への執着が強くて雄のペンギンと一緒にいることがほとんどなかった「サニー」のペア(ルビー32歳、サニー27歳)。
かつては、それぞれ雄と番で、その後相方がいなくなったあとにペアとなった同い年の「ウタ」と「キク」(ウタ23歳、キク23歳)。
他には前のトリーター日誌で紹介した、「チッチ」(25歳雌)と「マリー」(24歳雌)です。
これらの雌のうち「セサミ」、「ウタ」、「キク」、「マリー」は今でも雄からよくアプローチを受けることがあり、その後有精卵も見られています。
「セサミ」はそもそも雄個体と世帯をもつ気はなく、雌との結びつきを継続しているタイプのようです。
そのほかの雌たちは、経験豊かなすてきな雄がフリーで登場したらひょっとすると番になるかもしれませんが、ひよっこな雄にはあまり興味はないようです。
“えのすい”で雄雄というペアはまだ経験がありませんが、鳥の世界ではさまざまな形で子孫を残すための方法を見出しているようです。
近年SDGs関係でジェンダーレスやLGBTQという言葉を聞きますが、私たち人間の歴史に比べてペンギンなどの鳥たちは恐竜の時代からさまざまな環境変化を経て生存しているので、ジェンダーフリーで互いにつながりあって生きることは多様性としての一つの手段なのかもしれません。
言葉でカテゴライズするより、「今一番生きやすい形でいいんじゃない」そんな許容量の広さを感じます。
ペンギンに限らず、さまざまな生物から人間が学ぶことはたくさんありそうです。

ペンギン・アザラシ

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