2023年03月27日
トリーター:石川

二つの悲しいお知らせ・・・

3月 9日、2022年 1月より悪性黒色腫(メラノーマ)の治療をおこなっておりました「ヒカル」が亡くなりました。
ホームページで 3月 12日にお知らせさせていただきましたが、3月 15日のホームページをご覧のみなさまは「アカリ」の悲報に驚いたことと思います。

私たちトリーターでさえ、「まさか」、「どうして」という思いがぬぐいきれませんでした。

「ヒカル」は病気の治療をおこなっていたので、「いつかこんな日がくるのかもしれない・・・」と思っていましたが、「アカリ」が立て続けに死亡したので、念のため細菌やウィルス感染なども疑いました。世間では鳥インフルエンザも猛威をふるっていますので、そんなことも含めて迅速にそして慎重に検査しました。

「アカリ」の最終的な診断は細菌やウィルス感染によるものではなく卵巣捻転という症例でした。
「ヒカル」の死亡のすぐあとで、まったく関係ない病気で「アカリ」が亡くなったという状況でした。

「ヒカル」の悪性黒色腫(メラノーマ)は皮膚がんの一種で、飼育されているペンギンではそう多くない症例のようですが、発症後半年くらいで亡くなる例もあり、治療をおこないながらもこれ以上悪くならないように願っていました。
癌というと、なかなか治療が難しい中で、大学病院を含め多くのスタッフや獣医師の協力で、もしかしたら治せるのではないかという希望がみえた時期もあったのですが、残念な結果となってしまいました。
しかし間違いなく 30年前より 20年前、20年前より 10年前と動物への医療も進歩してきていると「ヒカル」の治療を通して実感できたことは、今後のペンギンの医療に確実に光明を残したと思っています。

「ヒカル」の死から4日後の 3月 13日に「アカリ」の体調が急変し、その日のうちに亡くなってしまいました。
前日の「アカリ」は快活で、魚もたくさん食べていて、なんの不調もありませんでした。
定期健診でも異常を認めなった「アカリ」に起こったのが、卵巣捻転でした。卵巣が捻じれて血流を止め、そこから出血を起こしたという状況だったようです。
卵巣捻転はヒトや鶏などではみられますが、これまでペンギンでの報告はないようです。

「アカリ」は「ヒカル」の最後の数日、一緒にいることで「ヒカル」のメンタルな部分に大きく寄り添ってくれていました。
「ヒカル」の死の直後にまさか「アカリ」の身にこんなことが起こってしまうなんて・・・ いまだに信じられない思いでいっぱいです。

「ヒカル」と「アカリ」という2羽の関係は、ほかのペンギン姉妹の関係性とは違っています。
若い頃は兄妹が一緒にいることはよくありますが、成鳥になるにつれ、それぞれ番(つがい)相手を見つけるなどして、徐々に離れていくものです。
しかし「アカリ」と「ヒカル」は生まれたときからずーっと一緒なんです。そんな2羽なだけに、全く関連のない病気でこの短期間に2羽が亡くなるという事象に、少なからず科学的な要因意外なものまでも感じざるを得ないほど、2羽はとっても仲が良かったのです。

「ヒカル」と「アカリ」が孵化したときは、「イチアオ」というオス親と「モンチ」というメス親の番(つがい)が初めて2羽のヒナを育てあげたことでも深く記憶に残っています。
また、普通1卵目と2卵目の孵化は1~3日ずれて孵化するのですが、この2羽は産卵日が4日も離れているのに、同じ 2001年 3月 22日に孵化しました。同じ日に孵化したのは“えのすい”では「ヒカル」と「アカリ」の例しかありません。
卵が産まれた順番でいえば「ヒカル」がお姉さんになります。
体型とお腹の黒点模様が多いのが良く似ている2羽でした。

「ヒカル」「アカリ」という名前は、当時ペンギンを担当していたMさんが そういった出生も踏まえて2羽でお客さまに親しみやすい名前を考えてくれました。

その後も離れることなく一緒にいて、あまりに一緒にいるため、成鳥になってからこの姉妹2羽で子育てをさせようと考えたこともあるくらいでしたが、それぞれ自分の卵しか温めず、交代もしないで、同じ巣箱の中で仲良く並んで自分の卵をだけを抱き続けるという状態でうまくいきませんでした。
また、近年ではオスの「サン」に2羽がくっつくという特異な関係がしばらく見られていたこともあります。ちなみに「サン」も 2012年生まれの年下ですが、同じ 3月 22日が誕生日という3羽なんです。

私の主観では、気が強いけど喧嘩はそんなに強くない「ヒカル」。そして気が強くて、喧嘩も強い「アカリ」の印象で、「ヒカル」が他のペンギンと喧嘩して負けて帰って来た後に「アカリ」がやり返して負かしてくるといったこともありました。
「ヒカル」はメンタルが弱くて環境が変わると餌を食べなくなることも多かったのですが、「アカリ」がいるとメンタルの戻りが早く、姉妹のつながりの深さがよくわかる一面でもありました。
最後に2羽が一緒に過ごせたことはお互いにとってもよかったのではないかと思っています。「ヒカル」が亡くなる数日前には、折り重なって寝ていたこともありました。

この2羽の名前は「私と一緒の名前なんです」って言ってくださるお客さまもたくさんいらっしゃって、多くの方に名前を覚えていただいたのではないかと思っています。今までかわいがっていただき本当にありがとうございました。

「ヒカル」は自分で育てたわけではないのですが、「サン」との間に1羽 子どもがいます。
「テン」という“えのすい”唯一の人工孵化、人工育雛で育ったオスのペンギンです。

「アカリ」は若手トリーターのショーデビューに付き合ってくれたり、さまざまなイベントでも頼れる存在でした。

いろんな意味で“えのすい”にたくさんの思い出と功績を残してくれた「ヒカル」と「アカリ」、あと数日で 22歳の誕生日だった ほぼ 22年もの長い間、私たちにいろんなことを教えてくれました。

2羽の存在が大きすぎて、思いは尽きません。2羽が残してくれた多くのことを今後のペンギン飼育へ活かしていきたいと思います。

「ヒカル」、「アカリ」 本当にありがとう。

「アカリ」(左)と「ヒカル」(右)「アカリ」(左)と「ヒカル」(右)

ペンギン・アザラシ

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