2024年04月27日
トリーター:園山

最近「シャコ」見ましたか?

みなさん、最近シャコを見ましたか。シャコはエビやカニと同じ甲殻類の仲間です。
私の感覚ですが、最近は生きている姿を見る機会がどんどん減り、それこそ水族館で見られる程度で、お寿司屋さんでも見なくなってしまいました。
最近、山口県の日本海側のシャコについての論文を一つ出せたので、今回はその話をしたいと思います。

この論文を書き始めたきっかけは大きく 2つあります。
一つは、日本初記録のシャコが採れたこと。もう一つは、これまで漁獲されていたシャコが年々採れなくなっている実感があったことです。

まず一つ目の日本初記録のシャコについてですが、山口県長門(ながと)市沖から得られたことにちなみ、和名をナガトシャコと命名しました。このナガトシャコは、これまでフィリピンの水深 136~ 189 mからしか見つかっていませんでしたが、今回の調査で、国内で初めて見つかりました。これまで国内で記録されているハヤマシャコ、ニセシャコというシャコとよく似ていますが、眼棘という眼の後ろにある棘の形と、第 1から 4 顎脚に副肢というものがあることで形が異なり、体色でも区別できます。
日本では山口県長門市沖しか確認されていませんが、ハヤマシャコ、ニセシャコとよく似ていますので、混同されてきたのかも知れません。

左がナガトシャコ、右がハヤマシャコ左がナガトシャコ、右がハヤマシャコ

もう一つ、年々シャコが漁獲されなくなっていること。こちらが本題です。
漁師さんからの話を聞くと、底曳網という漁法でよく獲れていたシャコ類が、近年ではなかなか取れなくなったといいます。私自身も 15年以上前までよく獲れる印象がありましたが、ここ数年は姿を見ていませんでした。
昔はどうだった、あの時はこの生き物がいたと、記憶しか残っていないと、いつか忘れてしまいます。今回、「記憶」ではなく標本に基づいた「記録」を残すために山口県日本海側で採れたシャコ類を集めました。

すると、結果的に合計で 10種のシャコの仲間を集めることができ、そのうち、日本で初めて採れた種が 1種(ナガトシャコ)、山口県の日本海側で初めて採れた種が 4種(スジオシャコ、ムツトゲシャコ、スベスベシャコ、セスジシャコ)集まりましたが、最後まで取れなかったのは、15年前まで普通に見られていたシャコとトゲシャコの 2種でした。

↑トゲシャコ↑トゲシャコ↑シャコ↑シャコ

海水温の上昇や人的な要因など、さまざまな要因で自然はその姿を変えていきます。シャコがいなくなり、別の生き物に置き換わるのは、すでに人間の手ではどうしようもないのかもしれません。きょう食卓にのぼっているさまざまな生き物たちも、いつまでもみなさんの身近にあるとは限りません。
自然が姿を変えていく速度は、人間の手に掛かれば、あっという間に壊れる方向に進みます。それもとても簡単に。しかし、人間が作ったかりそめの自然ではなく、本来の自然に戻すのは、人間の手に掛かってもとてもゆっくりにしか進みません。それもとても難しい。

私たちには何ができるでしょうか。 5年後、 10年後、きょう食べた食事ができるか、将来、自分の子どもにもその食事をさせることができるでしょうか。
今できている生活が、今後もできるように、他人ごとではなく、自分ごととして考えなければいけないなと論文を書きながら考えていました。

論文は下記から読むことができます。

園山貴之・久志本鉄平・石橋敏章・河野光久.2024.日本初記録種を含む山口県日本海側で得られたシャコ類の標本に基づく記録.北九州市立自然史・歴史博物館研究報告A類(自然史),22: 1–15.

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