2017年07月28日

「ハガキにかこう海洋の夢コンテスト」入賞者体験乗船駿河湾調査航海/鈴木

  • 期間:2017年7月28日
  • 場所:駿河湾
  • 目的:第19回全国児童「ハガキにかこう海洋の夢コンテスト」の入賞者(とその保護者)のみなさまに海洋調査の現場を体験してもらうこと
  • 担当:杉村・鈴木
深海調査船「かいれい」深海調査船「かいれい」


みなさんこんにちは。
7月28日に深海調査研究船「かいれい」にて、無人探査機「かいこうMkⅣ」を使った体験乗船・深海調査航海に杉村トリーターと共に乗船いたしました。
潜航海域は、日本一深い湾の駿河湾沖、水深約 1,000mです。
清水港より出発です。

今回の航海の主役は研究者の方々でも我々水族館スタッフでもありません。
入賞者の子供たちです。
具体的には、JAMSTECが主催する、第19回全国児童「ハガキにかこう海洋の夢コンテスト」の入賞者(とその保護者)のみなさまに海洋調査の現場を体験してもらうことを目的とした航海となります。

では、そもそもこのコンテスト、どういった内容かといいますと、全国の小学生を対象として、3つの応募部門(絵画部門、CG部門、アイディア部門)のいずれかで、海洋に対する夢やアイディアをはがきに描いてもらうといったものです。
そして、その入賞者特典として、な、なななんと、研究船の体験乗船にご招待するというのです!
ほんと、夢のような特典ですね。海洋調査研究機関の最前線であるJAMSTECの船に乗り深海調査などを体験できるなんて・・・。
一生に一度の素晴らしい体験になること間違いなしです。
私も小学生の頃に応募していれば・・と後悔しましたが、このコンテストが始まった19年前、既に私、小学生じゃありませんでした・・。ああ、二重に残念。。
(※因みに特典の内容などは毎年異なりますのでご注意ください)

今年の入賞者は10名が選ばれましたが、どの作品も想像力やアイディア溢れる素晴らしいものばかり。
毎年ながら本当に驚かされます。
興味のある方はぜひ JAMSTECのホームページを見てみてください。
過去の入賞作品や、過去数年分の体験乗船などのようすが紹介されていますよ。

では本題に入ります。
今年は3日間の乗船期間があり、10名の入賞者はそのうちのどれか1日に割り振られます。
そして、今回は“えのすい”含め、計5つの水族館や博物館が参加し、それぞれ割り振られた一日を担当しました。
我々“えのすい”は、3日間の初日、栄えあるトップバッターを任されました。
これは責任重大です。

さて、この航海での我々水族館スタッフの仕事は、といいますと、主に調査で見られた生物などについて入賞者のみなさまへ解説をおこなうこと。
もちろん、深海探査で採集された生物を船上で生かし、参加者の方々が観察し易いよう、水槽やその他の道具を準備することも飼育のプロである我々の役目です。

今回は日帰りの航海ではありますが、駿河湾 1,000mという“えのすい”では経験の少ない航海とうこともあり、あらゆる場面や状況を想定し、優に1週間以上の調査航海ができるくらいの万全の準備で望みました。
荷物を船に運び込んでみて、流石にちょっと多かったかな・・、とやや反省しましたが、何が起こるかわからない航海の現場で、あれを持っていけば良かった・・というのが一番悔しいこと。荷物は少々多めで望むくらいが丁度良いと思います。
その中には、もちろん入賞者のみなさまをより楽しませるネタもたくさん準備しております。

なので、万が一何も生物が見られなかった、採集ができなかった場合も決して参加者のみなさまを残念な気持ちにはさせません!・・という、あくまで心構えですよ・・。


それではこれよりややボリューム多めですが、体験乗船のようすを写真とともにご紹介。

7:45~ 入賞者の親子が乗船します。

まずは船内で安全講習を受けます。これは我々スタッフも全員受講が必須です。
救命胴衣の使い方や万が一の時の避難経路や避難具の使い方などを船員の方から指導を受けます。

オリエンテーションスタート。
深海探査の際におこなう実験の準備をおこないます。
今回は、深海にいろいろなものを沈める実験です。
形状や材質の異なるさまざまなものを木箱の中に入れ、深海の水圧でどう変化するか、参加者で考えて予想します。

8:30~ いよいよ清水港を出港です。

参加者のみなさんは出港準備を見学、その後は、船内をぐるっと見学します。

船を操縦するブリッジ、エンジンなどがある機関室や研究者が寝泊まりする船室を見学し、格納庫前で「かいこうMkⅣ」と一緒に記念撮影をしました。

日本が世界に誇る無人探査機が目の前に・・。まずこんな機会は滅多にありませんね。
こちらが無人探査機「かいこうMkⅣ」です。
写真左:後方から。「かいこうMkⅣ」は大きくランチャー(上の黄色い機体)とビークル(ランチャーの下に付いている機体)の2つの機体からなっています。
ランチャーはビークルを結合した状態で潜航していき、海底から 100mくらいのところでビークルを切り離します。
ランチャーは船とつながっている一次ケーブルにかかる水の抵抗を受け重しのような役割を果たし、ビークルは海底を自由に動き回れる機動性を生かして調査を実施します。

写真右:ビークルの正面から。高解像度カメラや海底でさまざまな作業をおこなうマニピュレーター(ロボットアーム)、などさまざまな機械がついています。
今回は吸うことでサンプルを採集するスラープガン(水中掃除機のようにして海水ごと生物を採集します)も装備します。

入賞者のみなさんが船をいろいろと見学している中、一方、我々水族館スタッフは水槽などの準備に取りかかります。
既に水槽は前日に船内のラボに設置しているので、海水を張り、冷水機を稼働させ海水を冷やします。
1,000mにもなると海水の温度は4℃を下回ります。深海生物を良い状態で生かすためには、水を冷やすことが絶対条件です。

9:30 目的の海域に着くまでの間、簡単なレクチャーをおこないます。
我々の最初の出番です。駿河湾に関するレクチャーをおこないました。
入賞者の緊張をほぐしつつ、これから始まる深海調査の期待を高めてもらえるよう、クイズ形式で話を進めました。
また、今回ゲストで乗船されたJAXAの方からも地球と宇宙に関するレクチャーをしていただきました。

10:15~ 「かいこうMkⅣ」の潜航のようすを見学。
入賞者含めみんなで出発を見守ります。
いよいよ深海調査のスタートです!

10:30~ 「かいこうMkⅣ」潜航開始
「かいこうMkⅣ」のコントロールルームに移動し、潜航する「かいこうMkⅣ」からのカメラ映像を観察します。

まずは、木箱に詰めたいろいろなものが水圧でどのように変化するかを観察。
深度が増し中身が変化する度に入賞者の子どもたちから多くの声が上がりました。
みんな知識として、これらがどう変化するのか、ある程度予想はついているようでしたが、目の前で、しかも実際に深海に潜る中で起こる生の変化にはやはり興奮しているようすです。

子どもたちも真剣にモニターを観察します。
潜航中にはカブトクラゲやサクラエビと思われるエビの仲間などが見られました。

11:25 水深 850m付近「かいこうMkⅣ」のランチャーを切り離し、いよいよ海底へ。
11:35 水深 1,000m付近に着底です。
調査開始です!どんな生物が見られるか。ドキドキします。
モニターに映る生物の解説は我々の仕事です。
経験豊富な杉村トリーターの解説にも力が入ります。
さすが航海のベテランです。頼りになります。

11:40 まずは用意した機材や道具をマニピュレーターで設置します。
360度映せるカメラと魚をおびき寄せるための籠(マニピュレーターが掴んでいるもの)を設置します。
籠の中にはサバやサンマなどの餌が入っています。
さて何が寄ってくるか・・。

11:50 次に海底の泥を採集します。
大きな筒型の採泥器を海底の泥にずぶりと刺して泥を採集します。
運よく泥の上にいるクモヒトデごと採ってもらえることに!
うまく入っているかは上がってからのお楽しみです。

さてさて、どんな生物に出会えるか・・
おおおおっと!早速出ました!!
大物です。
いきなり有名な深海性のナマコ「ユメナマコ」の登場です。
図鑑や映像の中でしか見たことがない貴重な深海生物が生で動く姿を見られるのは今回の醍醐味です。
これには私も感動しました。子どもたちも大興奮のようす。
同時にスタッフ側もとりあえず生物が見ることができて一安心・・。
その後調査を通し多くのユメナマコに出会うことができました。

12:00 設置した餌入りの籠にもアナゴの仲間が寄ってきました。

その後も数種類のアナゴの仲間がうようよと寄ってきて、餌を食べようとするようすが観察されました。

12:20 スラープガンの出番もありました。
写真上のナマコを吸っていただけることになりました。
因みに下もナマコの仲間です(ワタゾコナマコの仲間ではないかと思われます)。

スラープガンを近づけていきます・・

この後、うまく吸うことができました!観察が楽しみです。

12:45 観察だけではありません、入賞者の子どもたちにはこんな特典も・・!?
なんと、無人探査機「かいこう」の操縦体験ができるんです。
なんと羨ましい・・。

13:00頃 調査終了です。

今回目立ったのはナマコの仲間です。種類も数も多く見ることができました。
魚類についても、カサゴの仲間やソコダラの仲間、アナゴの仲間などが見られ、大変実りある調査となりました。

カサゴの仲間

13:00~ お待ちかね、船の昼食です。
船のご飯はとってとっても美味しいんですよ。
ちゃんとプロのコックさんたちが作ってくれているんです
きょうのメニューはカレーです。しかもエビフライ入り!!
見た目から既に美味しそうですが・・お味は・・最高に美味しいです!!
デザートにはアイスも出ました。入賞者のみなさんを囲んでみんなで食事をします。

13:45 「かいこうMkⅣ」揚収作業を見学。
いよいよ「かいこうMkⅣ」の帰還です。

14:10 「かいこう」を船上に揚収します。
さあ、調査で採れたはず・・のナマコやクモヒトデはちゃんと入っているでしょうか・・
緊張の瞬間です。

14:30 深海で採採集した泥や生物などをラボに持ち運び、観察をします。
採集した生物はなるべく状態よく水槽に収容し、観察等について解説をおこないます。
ここが我々の一番の見せ所です。

スラープガンで吸ったナマコは無事に採集できました!
すぐに水槽に収容します。状態も良さそうです。

続いて泥をバットにあけます。
クモヒトデの仲間はいるでしょうか?

良かった、いました!
子どもたちがすぐ見つけてくれました。さすがですね。

準備した水槽が役に立って本当に良かったです。

泥の中の生物も観察します。
目を凝らせて生物を分けていきます。
泥の中からはゴカイやクモヒトデの仲間を観察することができました。

深海の圧力実験結果をみんなで確認します。

こんなお楽しみも・・
水深 1,000mの水圧で漬けたその名も「深海漬け」です。
普通に漬けたものと比較もしましたが格段に漬かっていました・・。
キュウリは漬かりすぎて透明になっています。
それもそのはず、1,000mでは指の先くらいの面積に 100㎏の力がかかります。
ちょっとしょっぱいけど、美味しい漬物ができました。

これで生物の観察は終了・・
ではありません!
最後に我々から入賞者のみなさまへ、ちょっとしたサプライズです。
底曳網で獲れた駿河湾産深海魚を冷凍で持っていき、深海タッチングをおこないました!
もしかしたら今回見られたかも知れなかった生物として、メンダコや深海ザメ、その他、特徴的な多数の深海魚を用意しました。
これにはみんなも驚いてくれたようです。
喜んでいただけて何よりでした。

16:30 最後に今回の調査などのまとめをおこないます。
杉村トリーターが用意した貴重な深海映像もここで見てもらいました。

17:00 下船です。

最後に「かいれい」の船長さんから立派な乗船証を授与していただきます。
みんなで記念撮影をして、全行程終了です!
お疲れさまでした!!

以上が、今回の入賞者体験乗船の全貌です。
いかがでしたか?
自分も体験してみたい!と思った方、ぜひ自身の海洋の夢を大いに表現して、このコンテストにチャレンジしてみてください!

さて、ここから我々えのすいスタッフはもう一仕事、大きな仕事が残っています。
それは、今回採集された生物を生かして無事に水族館まで運ぶことです。
これができないと、せっかく採集できた貴重な深海生物の生態解明の飼育研究ができません。
また、この研究のようすを公開することもできなくなってしまいます。
生物のストレスやダメージを極力減らせるように、たくさんの水ごと袋でパッキングし、氷とともに発泡スチロールに梱包します。運ぶ際には最新の注意をはらいます。
船内の片付けをおこない、トラックに荷物を積み、最後にお世話になった船員さんやJAMSTECの方々にご挨拶を済ませた後、“えのすい”への帰路につきます。

21:00頃 水族館に無事到着です。
生物は・・・良かった、元気そうです!
用意しておいた水槽に採集した泥と一緒に収容します。とりあえず元気そうで何よりです。

はっきりとはわかりませんが、今回採取された生物は、クモヒトデ科の仲間とカンテンナマコ科の仲間(現在、種の同定中です)だと思われます。
もちろん初めて飼育する種類ですので、これからいろいろと最善の飼育方法を模索して、研究公開を目指していきたいと思っております。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。


新江ノ島水族館は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究を行っています。

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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