ヒメオコゼと共生するコツブクラゲ属の一種の生活史

2011年02月
第55回 水族館技術者研究会(日本動物園水族館教育研究会)
小谷野 有加 他



ヒメオコゼと共生するコツブクラゲ属の一種の生活史

小谷野 有加(1), 足立 文(1), 島津 恒雄(1), 笠川 宏子(1), 久保田 信(2)
 (1) 新江ノ島水族館
 (2) 京都大学フィールド科学教育研究センター海域ステーション瀬戸臨海実験所

要旨
魚類の体表に付着するヒドロ虫は日本で5種知られているが,それらの生活史,特に遊離したクラゲに関しての知見は少ない.
体表にヒドロ虫が付着したヒメオコゼMinous monodactylus 1個体が,2009年10月に神奈川県藤沢市片瀬海岸地先でシラス船曳き網漁に入網し,生きたまま新江ノ島水族館に運ばれた.
そこでヒドロ虫の生活史を明らかにするため,約1年間飼育・観察を行い,本種の査定を行うと同時にその分布拡大方法に関する考察を行ったので報告する.

ヒメオコゼは,水温20℃,ろ過循環した100L水槽で飼育し,週に3回,シラス等を給餌した.
搬入約1ヶ月後に表皮がポリプごと脱落したため,ポリプをプラスチック製容器に移植し、水温20℃で週に4~5回アルテミア幼生とシオミズツボワムシを給餌し飼育した。移植ポリプはすぐにヒドロ根を伸ばし,移植8日後から次第に容器全体に広がった.
表皮脱落後,宿主の頭部周辺だけに残ったポリプは,約2ヶ月後には体表全体に広がった.搬入8日後に魚体上のポリプより,移植約9ヶ月後以降、移植ポリプより通常形態の未成熟クラゲが多数遊離した.
クラゲは500mLビーカーに入れ、ガラス管を用いて通気・攪拌し、ポリプと同様の方法で飼育した.
遊離したクラゲは成長に伴い生殖腺の発達が多少見られ,最長で28日間生存したものの性の決定はできなかった.

以上の飼育観察により、本種は野外ではクラゲによる有性生殖に加え,ヒメオコゼの表皮脱落や魚体の移動を利用し,他の基質にも付着して,自らの分布域を拡大しているものと推測される.
本種はポリプとクラゲの形態により,コツブクラゲ属の一種Podocoryna sp. であることは明らかになったが,最も近縁であるサカナウミヒドラP. minoi やハヤマコツブクラゲP. hayamaensis とは別種の可能性がある.

RSS