深海の化学合成生態系生物の餌量条件

2011年02月
第55回 水族館技術者研究会(日本動物園水族館教育研究会)
根本 卓 他



深海の化学合成生態系生物の餌量条件

根本 卓(1), 北田 貢(1), 北嶋 円(1),
三輪 哲也(2), 三宅 裕志(3), 井上 広滋(4), 吉田 尊雄(2)
 (1) 新江ノ島水族館
 (2) 海洋研究開発機構
 (3) 北里大学
 (4) 東京大学大気海洋研究所

要旨
深海の化学合成生態系生物には,細胞内外に共生する化学合成細菌にエネルギー依存する種が多い.高依存度種の飼育方法は確立しておらず,これらの生物を研究素材とする各研究分野から技術開発が望まれている.本研究では,飼育方法の確立の一助とするために,硫化水素依存度が高いサツマハオリムシ(Lamellibrachia satsuma)における好適餌量条件を解明することを目的とした.
供試個体は,2009年4月に北部マリアナ弧の日光海山の熱水噴出域(水深467m)にて採取されたものを用いた.水温13.9℃の水槽(110cm×50cm×50cm, 容量200L)に約150個体収容後,電磁定量ポンプ(イワキ社製EH-Y-TM型)を用いて硫化ナトリウム水溶液(20g/L)を0.2mL×234回/分の速度で3分間添加した.添加開始から60分間5分毎の硫化物濃度を測定し,2分毎の活性個体(鰓が突出した状態)の個体数計測を行った.これを3回繰り返し,濃度と活性の関係を検討した.
硫化物濃度は添加直後に約656μg/L でピークに達し,その後指数関数的に減少しつつ,ほぼ1時間で消失することがわかった.活性個体は観察開始時約1個体(収容個体の0.6%)であったが,添加直後から増加し,21-25分後(硫化物濃度平均205μg/L),平均64個体(同42%)でピークを迎え,添加開始25分後,硫化物濃度が200-250μg/L 付近まで低下すると減少が始まる傾向が見られた.1時間経過した時点では,平均4個体(同3%)が活性を維持していた.
この実験から,サツマハオリムシの飼育には,飼育水中の硫化物濃度を200-250μg/L以上に高めることが重要であるこが分かった.
さらに今後は,この濃度を常に維持した条件での本種の反応を観察し,濃度に変化がある場合との比較を行う予定である.

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