2011年12月
東京大学大気海洋研究所 共同利用シンポジウム「生物多様性と水族館 研究・展示・啓発活動」 水族館の研究活動(口頭発表)
伊藤 寿茂 ・ 柿野 亘 ・ 吉田 豊 ・ 小林 敦 ・ 丸山 隆
関東産イシガイ類の幼生期の生態の解明
伊藤 寿茂(1), 柿野 亘(2), 吉田 豊(3), 小林 敦(4), 丸山 隆(5)
(1) 新江ノ島水族館
(2) 北里大学
(3) 栃木県水産試験場
(4) 京華学園
(5) 東京海洋大学
要旨
イシガイ目の貝類(イシガイ類)は,水路や池などの淡水域に生息し,タナゴ類やヒガイ類の産卵母貝として機能する。その生息環境の悪化に伴い,各地で生息数を減らしており,絶滅が危惧されている。イシガイ類の特異な点として,幼生(グロキディウム)が魚類などに寄生し,稚貝へと変態する生態が挙げられる。幼生が利用できる宿主は貝の種類によって異なっており,ハゼ科やコイ科の特定の魚種や両生類が使われることが分かっているが,幼生が寄生生活を営む前後の動態や,寄生中の変態の様子,水域内において実際に利用率が高い宿主との関わりなどについては知見が乏しい。本講演では,マツカサガイをはじめとする関東産イシガイ類の生活史の中で,特に幼生期について,演者らによってこれまで明らかにされた知見の一端を紹介する。
イシガイ類各種の幼生の宿主適合性を知るため,様々な生物に寄生した幼生を野外や飼育下で観察して,宿主ごとの寄生数や寄生部位,変態の成功率などを調査した。その結果,マツカサガイでは宿主適合性の幅が広く,カワムツやコイ,ハゼ類に寄生した幼生の多くが稚貝へと変態するほか,ドジョウ類やタナゴ類に寄生した場合でも,幼生の一部は稚貝へと変態することがわかり,12種以上の魚類を利用できることが確かめられた。
一方,ヨコハマシジラガイでは宿主適合性の幅が狭く,調査対象とした魚類8種と両性類1種のうち,カワムツ,ホトケドジョウ,トウヨシノボリの3種のみを利用でき,それ以外の週に寄生しても全て未変態のまま離脱,死亡することが確かめられた。ドブガイでは本調査によってヌマチチブとウキゴリの2種が新たに適合性の高い宿主と判明したが,ドジョウ類に寄生しても全て未変態のまま離脱,死亡してしまうことが確かめられた。
宿主から離脱したばかりの稚貝については,マツカサガイとヨコハマシジラガイについて飼育下における短期間の成長の追跡と,調査水域からの採集を試みた。その結果,殻表面の凸凹や色調に種間や同種の成長段階で差異が認められることや,両種とも足の伸縮運動を盛んに行う様子が観察された。一方で2ヵ月以上の長期飼育の難しさ,調査水域での採集数も少ないなどの課題も再認された。
ヨコハマシジラガイとマツカサガイの調査水域については,宿主魚類の採集を行い,その生息状況を調べた。その結果,前者では幼生と適合性が高いトウヨシノボリやカワムツなどが水域の広範囲に生息することが確認された。一方,後者では幼生と適合性の高い宿主が生息せず,適合性でやや劣るドジョウを主な宿主として利用していることが示唆された。





