2012年11月
平成24年度 日本動物園水族館協会 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会(口頭発表)
伊藤 寿茂 ・ 唐亀 正直 ・ 北嶋 円
生きた陸貝を展示する試み
伊藤 寿茂 ・ 唐亀 正直 ・ 北嶋 円
新江ノ島水族館
要旨
生活史の一部を陸上で過ごす巻貝,俗に言う「かたつむり」は,一般人にとって身近な生き物として親しまれている.貝殻の色彩や形状の多彩さから,博物館などで標本展示されることが多い一方で,生きた状態でまとまった規模の展示がなされることは少なく,近年ではほとんど事例が見当たらない.当館では,2012年6月に梅雨時期の特別展として「でんでんむしむし巻貝展」と銘打ち,生きた陸貝をメインに据えた展示を行ったので,その概要を紹介する.
展示生物の多くは沖縄県の石垣島や神奈川県において採集した.採集個体は各サイズのプラケースに入れて畜養した.ケース内には赤玉土と腐葉土を数cmの厚さに敷き,シェルターとしてダンボール片や流木を設置した.餌としてチンゲンサイなどの野菜を,カルシウム源として鶏卵殻とサンゴ砂を適量与え,数日ごとに餌の交換と水分の補給を繰り返した.
この方法により,ほとんどの種類を数ヶ月に渡って健常に維持することができ,さらにアジアベッコウ,オキナワウスカワマイマイ,アズキガイといった一部の種に関しては,ケース内で産卵し,生きた稚貝を得ることができた.
展示にあたっては,貝の活動による粘液や排泄物を頻繁に掃除する必要がある一方で,穴をあけた円筒型のケースに湿らせたフェルト生地と共に貝を収容したところ,水分補給の間隔を3~4日間に延長しつつ,貝の活動を長時間にわたり維持することができた.さらに,動いている貝の動画と,貝殻を背負わせたヤドカリの展示を併設することで,展示に動きを持たせることができた.
展示が終了した今後は,アズキガイを中心に,その繁殖技術の確立と生息環境の把握を進めたい.





