熱水噴出システムを用いた飼育下におけるユノハナガニの繁殖実験

2012年11月
平成24年度 日本動物園水族館協会 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会(口頭発表)
根本 卓 ・ 土田 真二 ・杉村 誠 ・ 北嶋 円 ・ 北田 貢 ・ 三宅 裕志



熱水噴出システムを用いた飼育下におけるユノハナガニの繁殖実験

根本 卓(1), 土田 真二(2), 杉村 誠(1), 北嶋 円(1), 
北田 貢(1), 三宅 裕志(3)

 (1) 新江ノ島水族館
 (2) 海洋研究開発機構 (3) 北里大学

要旨
 ユノハナガニ(Gandalfus yunohana)は伊豆・小笠原からマリアナ島弧,沖縄トラフの熱水噴出域の固有種であり,飼育下における初期発生に関する報告があり,ふ化後は成体の生息環境よりも高い水温を好むことがしられている.しかし,産卵前やふ化前の卵巣成熟期および抱卵期の雌が高い水温を好むかなど,至適環境に関する情報は得られていない.本研究では飼育下での繁殖を目指し,水槽内熱水噴出システムの開発,本種の熱の利用方法の解明,ならびに繁殖実験を行った.今回は本研究にて明らかとなった抱卵個体の熱水を利用した繁殖生態を中心にユノハナガニの生態について報告する.
 実験には,2010年8月に北部マリアナ弧の日光海山の熱水噴出域(水深468m)の調査にて採集された個体(46個体)を用いた.13℃に設定した水槽(50×50×50cm)にて飼育を行い(水質の平均値:水温13℃,pH7.32,塩分33.7%),2011年8月17日に1個体の抱卵が確認された.抱卵個体は上記と同型水槽内に設置した小型水槽(16×16×25cm)に隔離した.熱水システムには塩化ビニール製の管を用いて常温の天然海水を底から噴出させる様式を採用した.噴出部上方には半円状の被いを設置し,海底で抱卵個体が潜むと推測される熱水貯まりを再現した.行動観察にはデジタルカメラを用い3~5分隔のインターバル撮影を行った(計152時間45分 撮影会数10回).
 実験の結果,卵発生が確認され,抱卵確認から79日目にふ化を確認した.抱卵から発眼までの48日間は約92%の時間(50時間38分/55時間3分:撮影3回)を熱水上で過ごし,その後31日間は熱水上での滞在時間が3.6%に激減した(3時間24分/92時間45分:撮影7回).別個体での観察では交尾前ガード行動や,対面様式での交尾が観察され,また隔離した交尾の機会のない個体の産卵および卵発生が確認されたことから,本種は貯蔵した精子を用いた複数回の産卵が可能であることが明らかとなった.

RSS