2012年12月
第57回 水族館技術者研究会(日本動物園水族館協会)
杉村 誠 他
相模湾の底生生物調査および飼育・展示の試み
杉村 誠(1), 崎山 直夫(1), 幸塚 久典(2), 根本 卓(1),
北嶋 円(1), 鈴木 良博(1)
(1) 新江ノ島水族館
(2) 東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所
要旨
新江ノ島水族館の面する相模湾では,古くより生物相の調査が行われているが,水深200m付近の底生生物相の情報は少ない. そこで底生生物相の調査ならびに生体展示を目的とし,2011年度のマリンバイオ共同推進機構(英略称JAMBIO)のプロジェクトとして,東京大学三崎臨海実験所(以下、三崎臨海)と共同研究・調査を行った.
調査は2011年6月9日(予備調査),30日,10月24日の3日間行った.調査海域は,相模湾城ヶ島沖水深50~500m,三崎臨海の研究船である臨海丸(17t)を利用して,開口部50cm×20cmの生物ドレッジ採集器で採集した.5分間の曳網採集を予備調査も含め3日間合計10回行った.下船後,同実験所にて目合い2~5mmのステンレス製の篩いを使用して,礫中から生物を選別した.採集生物は70%アルコール溶液で固定を行い,活動の良好な種を飼育展示用とした.
採集された生物の大半は体サイズが(最大軸長)3~5mmで,節足動物門約55種,軟体動物門約50種,棘皮動物門約40種,他7動物門約55種,全10動物門約200種が確認された.水深300m付近を境に出現生物や底質に変化が確認された.水深50~300mは底質が砂礫質で,コブシガニの仲間などの砂礫底に潜行する十脚目類を中心に節足動物門が約35%を占め,全採集生物は約150種であった.水深300~500mでは,粘土質の泥と礫が混同し,水深が増すごとに粘土質の泥が主な底質に変化した.棘皮,軟体,環形動物門が各20~25%で,節足動物門は約13%に減少し,全採集生物は約60種であった.今回の調査から相模湾の水深50~500mの海底では,水深や底質の変化によって出現する底生生物相に違いが見られることが明らかとなった.また,当館では初展示となるノコバアサヒ(節足動物門),オオナミカザリダマ(軟体動物門)などを含め,約20種の展示公開も行った.





