水槽内で初めて観察されたメンダコの摂餌生態について

2013年11月
第58回 水族館技術者研究会 研究発表 (日本動物園水族館協会)
杉村 誠 ・ 根本 卓 ・ 北嶋 円



水槽内で初めて観察されたメンダコの摂餌生態について

杉村 誠 ・ 根本 卓 ・ 北嶋 円
新江ノ島水族館

[要旨] メンダコOpisthoteuthis depressa は頭足綱,八腕形目,メンダコ科に属する中深海性のタコである.本種は展示効果の高い種として注目されているが,その生態についての報告が少なく,飼育方法が確立されていない.今回の飼育では22 日間生存し,摂餌行動が初めて観察されたので報告する.
本個体は全幅15cm,2013年2月14日に静岡県沼津市内浦湾の小型船舶による底曳き網漁にて水深350m付近で採集された.採集直後から遮光した円筒形ケース(径15×高15cm)に収容し,水温を10℃前後に保ちながら水族館へ搬送した.展示水槽(50×50×70cm)で飼育を始め,照明は赤いLEDライトを使用した.展示面には光刺激を極力避ける為に遮光板を張り5cm径の観察窓を3カ所開けた.飼育水は水温7.6(±0.3)℃,pH7.96(±0.3),塩分濃度33.84(±0.96)‰であった.
水槽内では体を底砂に沈め,あまり動かず,時折水底を這って移動していた.光や物理的刺激に反応して傘膜を開閉させながら垂直に遊泳する様子が観察された.解凍したオキアミ,サクラエビを置き餌にしたところ,飼育開始から11日目に最初の摂餌行動が観察された.第3腕を伸ばして捕らえ体の下に巻き込むようにして抱え込み,体を持ち上げて口へ運ぶ様子が観察された.これは八腕形目を代表するマダコの摂餌行動に類似していた.5回の摂餌が確認され,赤外線カメラによる動画撮影を行った.17日目の摂餌を最後に垂直に遊泳する行動が増え,22日目に死亡した.
メンダコの摂餌生態についてはこれまで報告がなく,海底近くをホバーリングしながら口側の触毛で餌生物を探索するなどの行動が推測されていたが,今回の観察から,海底で周囲に生息している餌生物を捕えて摂餌するマダコなど,他の八腕形目と類似した摂餌生態をもっていることが示唆された.

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