2025年 11月 22日(土)、カマイルカの「クロス」が永眠いたしました。
「クロス」は 1978年 2月 16日から旧・江の島水族館で飼育を開始し、今年で 48年目。
世界最長飼育記録※ を更新し続け、えのすいの歴史をつくってきた個体です。
※公益社団法人日本動物園水族館協会(JAZA)のデータより
旧館時代から多くのお客さまを楽しませ、トリーターの誰よりも長くえのすいを支えてきた存在でした。

「歳を感じさせないくらい元気いっぱい!」
いつからか、これが「クロス」を紹介するときの決まり文句になっていました。
本当に高齢になってからも、合図には全力で応えてくれて、さらに新しいことに挑戦する姿には、私たちも何度も驚かされました。
とても真面目でまっすぐな性格で、新人トリーターが最初に担当することも多く、旧館時代からたくさんのトリーターが「クロス」に育ててもらいました。
もちろん私もその 1人です。
出会った頃にはすでに“えのすい歴 41年”の大ベテランで、学ばせてもらったことは数え切れません。
2019年:浦﨑 1年目、クロス 41年目 はじめましての日新しい種目を一緒に練習するときも、他の若いイルカたちならつまらなくなって、途中でどこかへ泳ぎに行ってしまいそうなところを、「クロス」はいつも最後まで付き合ってくれていました。
時々「つまらないよ!!」と小さく音を鳴らして苦情を言いつつも、付き合ってくれていた「クロス」には頭が上がりません。
ここ数年は大きく体調を崩すこともありませんでしたが、最初に「あれ?」と感じたのは今年の夏でした。
この 1~2年くらいでスロープの奥まで上がれなくなってはきていましたが、体重計の板にも上がれなくなったため、メジャーでの胴囲測定に切り替えました。
その後も、尾びれを持たせてね~という合図に対しても、尾びれを上に持ってくる動作が難しくなってきているようでした。
さらに胸びれでうまくバランスが取れず、くるっと回転してしまうことも増えました。
体が思うように動かなくなってきても、いつも通りまっすぐに私たちと目を合わせようとしてくれる姿に、胸を打たれる瞬間が何度あったかわかりません。

そんな「クロス」の気持ちに応えたくて、トリーターもあの手この手でサポートしました。
「尾びれがうまく持ち上げられないならトリーターが補助してあげる」、「なるべく楽な体勢を取れるように」、「でも『クロス』の健康維持のために必要な検査はできるように」。
毎日の体温測定や月に一度の採血、水分補給など、できる限り一緒に取り組んできました。
トリーターと「クロス」の二人三脚、、、と言えるほど立派なものではないかもしれませんが、「『クロス』が何とか応えようとしてくれているのだから、どうにか汲み取りたい」そんな思いでした。
ジャンプや身体を大きく動かす遊びは少しずつ難しくなっていきましたが、最後まで楽しそうだったのが「ボール遊び」です。


2025年 11月 21日押したり、乗っかってみたり、口でくわえてみたり。
慎重に狙いを定めてボールに向かっていく姿を見ると、いま楽しい時間を過ごせているのかな、とうれしく感じていました。
10月下旬頃から体調が悪化していきましたが、亡くなる前日までボールで遊んだり、ホースの水に体を当てに来たりと、穏やかに楽しむ姿を見せてくれました。
その日の夕方、帰り際にもプールに行くと「セブン」と一緒に顔を出してこちらを見に来ていました。
実は練習してできるようになった「セブン」との“チークチーク”そして 11月 22日早朝。
いつかは来ると覚悟はしていたものの、とうとうその時が来てしまいました。
正直に言うと、まだ「クロス」のいないえのすいに慣れないままの浦崎です。
毎日つけている飼育日誌、最年長の「クロス」は一番上のページ。
新人トリーターの頃からずっと、「クロス」のページから開いていました。
なので今でもついつい一番に開いてしまいます。
朝の見回りでも、日中ふとした時でも、自然とカマイルカプールをのぞいて、「クロス」を探す癖が抜けません。
ここまで長生きしたカマイルカを経験したトリーターは、えのすいには誰もおらず、未知の世界でした。
だからこそ「クロス」は最後の最後まで、私たちにたくさんのことを教えてくれました。
「高齢のイルカはどんな変化が出るのか」
「どんなサインを見逃してはいけないのか」
「どんなケアが少しでも楽にしてあげられるのか」
担当者や獣医と何度も話し合いながら、できる限り居心地よく過ごせるように考え続けた時間。たくさん「クロス」のことを考えたその全てが、これからの私たちの大切な財産になっていると思っています。
長い間本当にありがとう。
私よりも遥かに長い人生の一部に少しでも関われたこと、最後まで一緒に
過ごせたこと、「クロス」との時間はいつまでも宝物です。

「クロス」から学んだ全てを、これからの展示・飼育に生かしていきます。

最後に、旧館からずっと応援してくださったみなさまに心より感謝申しあげます。
また突然のお知らせにも関わらず連日たくさんのお花やメッセージなどをいただきました。
「クロス」がたくさんの方々に愛されていたのだな、と改めて実感いたしました。
重ねて、深く感謝申しあげます。