2019年05月02日
トリーター:石川

~親から子へ~

親から子へ伝えて行くべきものは私たち人間だけではなく、生き物たちにもあるように思います。
恐らくそれが生物の多様性にも繋がっていくのではないでしょうか。

我が家の子育ては、私や妻の親、祖父母、叔父叔母の影響を多く受けていますが、ペンギンの子育てや家庭の作り方にも見習ったところが多かったように思います。

ペンギンやカワウソの場合、親の性格などのほか子育ての方法も子へと引き継がれているように思います。

カワウソの子育てを観察していていちばん緊張するのが水泳の特訓です。
人間なら虐待に見えるような行為・・・ まだ水に慣れない子を無理矢理水へ入れて上から押さえ込む・・・
「カワウソの水泳トレーニングはスパルタだよ」とは聞いていましたが、逃げる子に噛みついて、引き戻し、息を吸おうとする鼻面に噛みついて沈める、息を吸いに上がってきた子は必死の形相で大きな口を開けて息を吸うが、その瞬間にまた沈められてしまいます。

この行動は今では集団でおこなわれ、5頭いる家族のうちの誰かが毎日かわるがわる、他の 4頭の家族に沈められてしまいます。時にお父さんの「ヨモギ」もやられるようですが、さすがに子や「ミサキ」ほどではないようです。

家族ではなく他の雄にペンギンの泳ぎたての幼鳥を沈められてしまった経験のある私としては、お客さまに「遊んでいるだけですよ・・・」と説明しつつも、本当に心配になるくらいスパルタなのですが、水辺にくらすカワウソにとっては、獲物を襲う、敵に襲われる、喧嘩する、縄張り争いなど、生きていくために絶対必要なのです。

あと、夕方寝てほしいのに子どもが寝ない時は、子がもう参ったと寝床へ逃げるくらいの激しい遊び相手をすることで、いつまでもだらだら外で遊ばないというしつけをしているようにも思えます。
そして子どもが寝るとおとなの時間が始まるのです。

子育てじょうずなペンギンの親は、甘えて餌をねだる雛に、もうありません!と教えますが、仕方なく餌を吐き出して与えてしまう親もいます。雛の甘えを完全に無視する親もいます。
個性なのでしょうが、カワウソより少し人間寄りな感じがします。
雄雌 2羽で仲良く育てる親もいれば、仕事のように交代制できっちりおこなう親もいます。

雌が帰って来ると雄が出かけて行くのですが、あまり巣や雛への執着がないのか、完全に相手に任せきっているのか、それが強いつながりの上なのか、親が自由を満喫しているのかわかりませんが、それくらい交代して出て行った方は解放感に酔いしれているようにさえ思えるそんな「つがい」もいました。

ちょっと困るのは「自分がやりたい派」でしょうか。積極的に抱卵、育雛をやりたがる雄なのですが、やりたがるあまり、交代に帰ってきた雌を巣穴へ入れず、追い払ってしまうなんてことがあります。交代したくないようです。
今、フクとマーチが卵を抱いていますが、この2羽も初めの頃はそんなようすを見せていましたが、徐々に分担できるようになってきたようです。

ペンギンはふつう、雄雌のペアで卵を孵化させて雛を育てて行きます。近年は雌雌のペアに孵化、育雛をお願いしていますが、野生でも雌雌のペアが存在するなら雌雌の親だからこそ継承されていくことがあるのかもしれません。

一頭一頭、一羽一羽こんなに個性があるのですから、少なからず親の影響を受けていても不思議はありませんね。
フンボルトペンギンの「ナイス」やコツメカワウソの「カシワ」、「オモチ」、「サクラ」がどんなふうに育つのか、親の個性と比べてみるのも今後の楽しみです。
継承されていくものは人も生き物も変わりなく、そして少しずつ時代や環境に合わせて変わっても行くものなのでしょう。

さて、昭和から平成、平成から令和へ“えのすい”がなにを継承し、何を伝えていけるのか、ぜひご期待ください。

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