2019年10月31日
トリーター:伊藤

人気がないという思い込み

イセエビイセエビ

私だけかも知れませんが、水族館で勤務していると、みなさんが見たがっていたり、触れ合いたいと思っている生き物を誤解、というか、察知するのに鈍感になってしまうことがあります。つまり、実はお客さまが求めているのに「こんなのを見せてもなぁ」と思い込んでしまうのです。

おそらく、館内や近隣の海、魚市場などでしょっちゅう目にしているうちに、そう思い込んでしまうためだと思っています。これを防ぎ、察知カンのようなものをゆり戻すために、お客さまや家族など一般の方々の意見をちょこちょこ聞かねばと思っています。今回はそんな仲間たちを取り上げてみます。

イセエビ
エビ、と呼ばれるものの中で最も有名で、大きく、よく動き、こそこそ隠れない、水面に出て逃げない(重要!)、さらには入手もしやすく飼育も難しくない(繁殖は別ですが)と、非の打ち所がない存在です。にも関わらず、つい脇役ポジションに追いやってしまいがちです。上記認識のうえ、当館では「相模湾ゾーン前半の湘南港の水槽に多めで展示しています。
水槽のまわりを通りかかると「おいしそう!」「(食材として)すごい!」と言いながら注目しているお客さまがやっぱり多いです。展示のメインにすえて良かったと思える瞬間です。
なお、「おいしそう」と言ったのを私こと通りすがった飼育員に聞かれ「しまった」と感じるお客さまもおられますね(微妙な態度でわかりますよ~)。その感想、全然OKです。私も食べたい! がっつきたい!です。

メジナ
内輪では「またこれか」という扱いをされがちな脇役中の脇役、“万年ないがしろ”キャラなのですが、特に釣りが好きな方の中に、ファンが多い魚です。
入口最初の水槽「出会いの海」は波の強いタイドプールのイメージがありますが、私的には江の島南岸とか烏帽子岩の荒磯で、強烈な波が打ち砕けるイメージで、白波の下で活動するいいサイズの磯魚を見せたいと思っている面があります。
実際に磯釣り師の知り合いから「あの展示はすごくイイ! サラシの下で磯魚がどういう動きをするのかよく分かる」と言ってもらえたことがあります。なのでつい、イシダイやらカンパチやら、タイドプールらしくない(荒磯らしい)魚を展示してしまうのでした。


クロメジナ

アカテガニ
などの身近な甲殻類たち。あとはヤドカリもそうですが、マニアックな珍魚より、子どものころよく目にしたこれらへの注目度は目を見張るものがあります。大人からも子どもからも「あっ!カニだ」「ヤドカリたくさんいるね」との言葉がよく聞かれます。
その筆頭は世界最大で相模湾が一大産地でもあるタカアシガニでしょうが、イワガニ類やワタリガニ類といった中~小型の面々もイイ感じでお客さまの目をひきます。今後さらに展示に力を入れられたらと思います。


アカテガニ

カメ
小さい種でも、その注目度は魚を凌ぐと常々感じます。当館の場合、ウミガメは常設で展示がありますが、世間には「ウミガメ好き」と「それ以外のカメ好き」がいるように感じます。その常設展示は今のところ難しいですが、私が主導する回のイベント水槽では極力、展示に入れるようにしております。


サルヴィンオオニオイガメ(テーマ水槽 えのすいハロウィン2019)

残念ながら本日閉幕のテーマ水槽「えのすいハロウィン2019」でも、私秘蔵のカメを連れてきて、みなさまに見て頂きました(実は私の愛ガメで、再登板でした。公私混同すみません)。
明日からのテーマ水槽では、佐野トリーター秘蔵のカメが登場しますよ。

他にもありますが、またの機会にとっておきます。
これらとは逆に「これを展示したらみなさん注目してくれるはず」とマニアックな目線で展示種を選び、展示飼育の難しさ、お世話の手間の割に反応はそれほど…という場合もあります。つい、水族の専門家集団の中にいると、興味深い展示を突き詰めていく中で、一般の目線から外れていくことがあると感じています。
みなさんの見たい生き物をがっちりおさえつつ、その中で「この小さな珍種のこんな不思議さも知ってほしい」という思いもちょこちょこはさむ、そんなバランスで展示を展開できたらと日々考えてしまいます。

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