2020年01月15日
トリーター:鈴木

寄生虫展はじまりました

こんにちは、鈴木です。
1月14日より、バレンタイン特別展示「究極の片思い 水中の寄生虫たち」がスタートしました。
[バレンタイン特別展示 究極の片思い 水中の寄生虫たち]

なぜ片思いで寄生虫?と思われるかもしれませんが、実は寄生虫と宿主(寄生する相手)との間には恋愛以上のドラマがある・・・(と、勝手に思っています)
寄生虫は宿主にくっつき、宿主から栄養分を得ることで生活しているため、宿主がいなければ生きていけません。
寄生して相手を殺すなんてもっての外、そんなことをしてしまえば、自分も生きてはいけなくなるので、基本的には寄生虫が宿主を殺すことはありません。
つまり、相手に迷惑がられながらも、命がけで寄り添い続け、離れると死んでしまう。
まさしく究極の片思いというわけです!(ちょっと強引でしょうか?)

さて今回は、この企画展の舞台裏を少しご紹介します。
(大下トリーターからのIMATA日誌の振りはまた次回のお楽しみに・・)

まず、この企画展の話が出たのは、昨年 10月頃のことです。
実は昨年 2月のバレンタインをテーマにしたプラチナクラブで今回と同様の寄生虫をテーマにした講話をおこなっており、いつか企画展としてやってみたいねと話していたのですが、急遽わがチームの隊長の発案であっという間に話がまとまり、1月14日スタート・・といった、準備期間約 2か月という正直ギリギリの戦いが予想されるスタートとなりました。

早速隊長とともに作業を始めました。
コンセプトや展示方法を考えるのと並行し、最初に始めなければならないことは、展示物である寄生虫を集めることです。しかし、残念ながら、えのすいには今回のスペースを埋めるほどの寄生虫標本は持っていないので、外部からお借りする必要がありました。
幸い、私の恩師である大学の先生やその先生からご紹介いただいた専門家の方々から大変心強い協力を得ることができましたが、私の寄生虫に関する知識がついていけておらず・・・。多種多様な寄生虫すべてをきちんと理解できておらず、何をどう展示したら面白いのかが曖昧でした。これらをきちんと理解できていなくては、協力者にどんな展示をしたいのかを説明すらできません。
ちなみに、私の専門は魚病なので、寄生虫も扱わないわけではありません。しかし、私が扱ってきた魚病として問題となる寄生虫は目に見えない顕微鏡レベルの種ばかりで、今回メインで展示しようと考えている大型の寄生虫はほとんど専門外です。
というのも、先述の通り、寄生虫は基本的に宿主を殺すことは無いので、あまり魚病として問題にならないんです。

さらに、寄生虫というグループはなく、さまざまなグループに存在しております。魚類に寄生する種だけでも、少なくみて1万種はいる多種多様な世界です。
協力者の先生方に教えていただきながら勉強し、何とか、協力者の方々向けの企画書をまとめ、標本をお借りする段階へ行くことができました。ちょうど、企画展開始まで 1か月を切った頃のことです・・。

早速、標本を借りる段取りをして、それぞれの協力者の方に標本を借りに行きました。
ここで、衝撃的な出来事が・・。協力者の一人の研究者の方が私蔵している寄生虫標本コレクションがすごすぎました。何がすごいかってその量です。
数が多くて選定する時間がないから、全部見せますね、と大変ありがたいお言葉をいただき、いざ、見せていただくと・・、すごい量です。
いくつものコンテナの中に、合計およそ 10000点はありそうです。

1日がかりで、大まかに選定をして、最終的には、体の構造が見やすいようにスライドに圧平され染色された標本(庄平染色標本)を約 1000点、ガラスのビンに入っている液浸の標本(液浸標本)が約 2000点、計 3000点ほどの標本をお借りしました。





お借りした標本類、すごい量です。




寄生虫の庄平染色標本と液浸標本

これは全て私蔵のコレクションというのだから驚きです。
いろいろと説明やおすすめなどのレクチャーを受けましたが、最後は私がこの中から展示したいものを選ばなければなりません。
この工程が正直いちばん苦労しました。本当にいろいろな標本があり、全部見て欲しい気持ちを抑えつつ、毎日標本とにらめっこしながら、種名や学名、分類群などを調べたりしながら、取捨選択を繰り返し、何とか液浸、庄平合わせて約200点に絞りました。



液浸標本の選定



庄平染色標本の選定

今回の企画展は、多様な寄生虫の世界を知っていただき、寄生虫という分野を知るきっかけとなってほしいという思いがありましたが、知識がつき寄生虫の大まかな分類ができるようになってくると同グループでも見た目の形が全く違ったり、さらに幼虫と成虫で違うものであったりと本当に多様であることを実感します。
さらに他の研究者の方々からも貴重な標本をお借りしました。
協力してくださった研究者のみなさま、本当にありがとうございました。

これらの選定が終わったのが開始 1週間前ほど・・。これから、パネル用の写真を撮り、種名や宿主のデータと共に大量の種名パネル作りとなります。
実は“えのすい”には、素晴らしいことに、こちらの原案を元にパネルなどをデザインし、作製してくれる専門のチームがあるのですが、原案がなければ作製はできません。当たり前です。つまり、こちらがギリギリで原案を出せば、それを作ってくれる方々はさらにギリギリになってしまう・・ということです(はい、これもごく当たり前です。本当にギリギリで申し訳ありませんでした・・)。
かっこよく言えば運命共同体です!・・大変迷惑な共同体です。まるで寄生虫と宿主の関係のようだ(当然私が宿主に迷惑をかける寄生虫です)・・・と、あらゆる物事に寄生虫学を適用するほどにこの期間はどっぷり寄生虫の世界に漬かっておりましたが、私の一方的な信頼と、身勝手なチームワーク?でしたが、少なくとも寄生虫と宿主のような片思いではなかった・・と思います。(あくまで私見です)
デザインチームのF川さん本当に遅くまでごめんなさい。
そして、本当にありがとうございます。
また余談ですが、寄生虫の生き方や、生物学的な寄生という考え方は知れば知るほど奥が深く、面白いです。一度みなさまも触れてみることをおすすめします。結構、我々が生きるヒントがあると思いますよ。


ではここからいよいよ、終盤です。
怒涛のラスト数日間を写真でご紹介。


レンタルのガラスケース到着、設置



液浸標本展示・仮配置、展示用ガラス瓶展示配置確認

前日は、チーム総出で手伝っていただきました。
みなさんありがとうございました。おかげで何とか間に合いました・・。


庄平染色標本のクリーニング作業


展示用標本瓶への標本の入れ替え


庄平染色標本スライドガラスを展示用の透過パネルに貼る作業


業者さんによるシート張り作業


標本展示作業


とりあえず標本、種名パネルの展示完了!すでに明け方・・
残りは展示映像の編集です・・





そして、ついに完成・・!したのは、当日の開館 10分前です。

いろいろと困難はありましたが、準備期間中は寄生虫の話題で、さまざまなチームの方から声をかけていただきました。寄生虫というワードがチームの垣根を超え、スタッフ全員が一丸となってスタートできた企画展だと個人的に感じており、大変嬉しく、飼育員冥利(みょうり)に尽きる思いでした。

最後に、寄生虫はちょっと・・というみなさま、散々書いてきましたが、ひと言で寄生虫といっても数万種はおり多種多様です。
見た目がかわいらしい寄生虫や、一生を同じペアで添い遂げ、さらにくっ付いて融合してしまうという、究極の愛の形を体現している、バレンタインならではの寄生虫などもご紹介します。インパクト強め・・の寄生虫もおりますが、その姿こそ、寄生虫たちがこの片思いを続けるために進化し続けた結果なのです。
バレンタインをきっかけに両想いになりたいと考えているみなさん、命を懸けた一世一代の究極の片思いを続ける寄生虫たちから、ぜひ勇気をもらいにいらしてください!

[バレンタイン特別展示 究極の片思い 水中の寄生虫たち]

RSS