2020年01月23日
トリーター:八巻

シロウリガイ探査プロジェクト

みなさんこんにちは! 今回は新江ノ島水族館とFullDepth(フルデプス)が共同研究としてすすめている、「シロウリガイ探査プロジェクト」についてご紹介します。

相模湾は日本でも屈指の深海湾として知られていて、1000mを超える深海が比較的沿岸にあります。中でも初島沖の海域は、シロウリガイやサガミハオリムシ(現在“えのすい”で公開中)を中心とした生物群によって化学合成生態系(※注1)が形成されている、世界的にも限られた海域です。しかし一方で、そのような深海へのアクセスは容易ではなく、潜水艇や無人探査機が必要不可欠で、私たちがそれらを用いる調査航海へ参加させていただく機会もとても限られています。

そんな中で、新たなアプローチ方法を確立するため、小規模ではあるものの、水中ドローンを用いてハンドリングのよい深海調査を実現しようという目的を掲げ、2019年7月、このプロジェクトがスタート、2019年10月に初めて初島沖を予定海域として調査を実施しました!

調査日当日は、あいにく台風が近づいており、判断に迷う天候でした。しかし、江の島周辺の海は比較的荒れておらず、まずは初島沖までいってみようということで、実施するはこびとなりました。
初島へのアクセスは、江の島を母港とする釣り船にお世話になりました。調査日朝、江の島へ集合し、FullDepth社開発の1000m級水中ドローン「TripodFinder」(試作機)を積み込んで、初島沖へ向けていざ出航です(写真 1)!


写真 1

道中は思ったほど揺れず、皆で話をしながら、明るい見通しの中向かいました(写真 2)。しかし、初島沖へ到着、いざ船の行き足を止めてみると、さきほどまでの揺れの無さが嘘だったように揺れ始めたのです(写真3)。残念でしたが、このまま実施するのは危険と判断し、初島沖での潜航はあきらめることにしました。そして、比較的海況が良い江の島沖水深約 600mの海域まで引き返してみることにしました。


写真2


写真3


江の島沖の調査海域に到着すると、読み通り潜航できる海況でした。早速準備をして潜航開始です(写真 4, 5)!


写真 4


写真 5

潜航中、は船上で水中ドローンが写す映像を見守ります(写真 6)。中層で何やら半透明な細長い生き物を発見しました(写真 7)。ヒカリボヤです。ときどき定置網などにも入ることがありますが、光の届かない水深で観察したのは初めてでした。試しにライトを消してみると・・・光りました! 真っ暗な背景に光の点の集合で浮かび上がる姿はとても美しく、反面ずっと見ていると距離感が希薄になるような錯覚に陥ります。あたかもCGの立体造形物を回転させながら見ているような不思議な光景でした(写真 8)。


写真 6


写真 7 ヒカリボヤ


写真 8 ヒカリボヤ発光

海底に到着、あたりを探索すると、アナゴのなかまやソコダラのなかま、ヘラツノザメなど多くの深海性魚類を観察することができました。魚の他にもゴカクヒトデやフクロウニのなかまなど、無脊椎動物も観察できました。
特に観察できて嬉しかったのがこちら、ナマハゲフクロウニです(写真 9)。普通のウニのようですが、よく観るとトゲの中に丸みを帯びた袋状の突起が 4本立っています。この突起がナマハゲの角のようだというところから、このような面白いネーミングになったそうです。


写真 9 ナマハゲフクロウニ

その後 1時間半ほどの潜航で、15種ほどの生物を観察できました。一方で、生き物以外の物も観察することができました。その代表がこちら、レジ袋です(写真 10)。今回は 2度、レジ袋が視野に入りました。
近年マイクロプラスチックによる海洋汚染が話題になっていますが、水深 600mの海底でもレジ袋を頻繁に見かけるという現実は色々と考えさせられるものがありました。


写真 10

今回目的としていた初島沖に潜航することはできませんでしたが、実際に初島沖に行ってみることで、実施にあたる天候判断の経験にもなりましたし、相模湾の水深 600m近くの海底で生物を観察することもできました。次につながる結果ととらえ、今後も本プロジェクトを前進させていきたいと思います!

(※注 1)化学合成生態系:硫化水素など化学的なエネルギーを用いて栄養を合成するバクテリアが生産者となる生態系。深海の熱水域や湧水域などに形成されている。地球上ほとんどの生物は光エネルギーを用いて栄養を合成する植物が生産者となる「光合成生態系」に属している。

新江ノ島水族館×FullDepth 深海探査共同プロジェクト

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